野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口整体とユング心理学 瞑想法と心理療法

第五章 野口整体と心身医学の共通点 二2②

前回の続きで、心身医学がぶつかった壁についての内容です。 現在、心身医学の世界では一人の医師が体と心の両面から、一人の人間をまるごと診るというやり方ではなく、各専門医と心理療法の専門家がチームで行うという方法が取られている様です。 池見氏も…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 二2補足 心身一体と魂の不滅はなぜ矛盾するのか

ライサー氏の心身観にある宗教的背景 ライサー氏の「心身一体の考えに徹することは、不死への望みを断ち切ることになる」というところはちょっと分かりにくく、生前、金井先生も理解しきれないところがあって、このように思うのはなぜだろう?と何度か話題に…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 二2①

①東西の医学の出会い― 西洋思想「心身二元論」の壁 池見氏は1977年9月、京都国際会議場で第四回国際心身医学会が開かれた際、組織委員長を務めました。 氏は、当時の学会会長であるアメリカのライサー氏(エール大学教授)の開会講演「東西の医学の出会いの…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 二(補)

心身一如の医学と死生観 本文中にある引用ですが、長いので補足資料扱いとします。 池見酉次郎氏は『人間回復の医学』(創元社)で、次のように述べています。 第一章 まるごと健康からの再出発 私どもは、三〇数年前から、…現代医学の在り方に対する反省と…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 二 1②

一で述べたように、アメリカやヨーロッパでは心理療法家や医師が、情動に関わる障害を治療する方法として東洋の身体行に注目し、研究がすすめられてきました。 近年では、ヴィッパサナ瞑想をメソッド化したマインドフルネス瞑想が、FacebookやGoogleなどの大…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 二 1①

二「抑圧感情」を病理として認める心身医学が求められる現代 ― 池見学が裏付ける金井流心療整体の心身医学的根拠 二で取り上げる池見酉次郎(ゆうじろう)医師は、日本の心身医学のパイオニアです。患者を自宅に泊まらせるなど、自分のすべてをぶつけて向き…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一10②

体の外側(体表)から観察することの意味 フロイトは、「自我」という心のはたらきは皮膚に基盤を持っていると考えていました。生まれたばかりの赤ん坊は、最初は母親に抱かれた時の一体感を皮膚感覚を通して感じます。その後、自分と母親が分離した存在であ…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一 10①

①内臓に注目する西洋医学・体壁に注目する東洋医学 解剖学者・三木成夫(1925年生)は、人間の体を内蔵系と体壁系(体癖ではない)の二つに分けました。これは古代ギリシアのアリストテレス以来の大別のしかたでもあり、これをまとめると次のようになります…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一9

現代人の心の問題を考えた深層心理学者は東洋の瞑想法の意義を捉えた 湯浅氏は『気・修行・身体』(第一章 東洋的身心論と現代 7)で、心身相関的見方を開拓した西洋の深層心理学者や精神医学者の中で、東洋の宗教的修行法(身体技法としての瞑想法)に関心…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一8②

人間の「精神的成熟」を目的とする東洋の修行法 ― 呼吸法の訓練をする瞑想法は自律系機能との対話 (金井) 哲学者である湯浅氏は、現代の神経生理学の立場から、「人格の向上とは、より深い無意識の感情のはたらき・愛や慈悲というものが意識に表れてくるこ…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一8①

人間の「精神的成熟」を目的とする東洋の修行法 ― 呼吸法の訓練をする瞑想法は自律系機能との対話 金井先生は生前、「修行」という言葉の意味が通じなくなった…とよく言っていました。それが、未刊の原稿の内容に取り組む動機になったのですが、それは身体の…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一7

深層心理学が説いた無意識とは生理学の自律系― 心身分離から心身相関へ これまでに述べたように、感覚器官を支配する感覚神経は大脳皮質に中枢があり、自律神経の方は皮質下(大脳辺縁系・脳幹)に中枢があって、両者は分かれているのですが、条件反射は、こ…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一(補)

(補足資料)東洋の修行法が目的とする情動のコントロール 湯浅康雄『気とは何か』 意志の自由になる皮質(感覚―運動)系の機能と、意志から独立した自律系の機能は、まったく無関係というわけではなくて、情動作用によって関連しているのである。したがって…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一6②

近年、画像診断の技術が進み、これまでできなかった生きた人間の脳と情動の神経生理学的な研究が進んでおり、先に紹介したアントニオ・ダマシオの研究は、特に注目されています。 そして、ストレス性疾患の原因であり、人間の進化の過程で取り残された余分な…

第五章 野口整体と心身医学の共通点一6①

体の二重構造から心の二重構造(意識・無意識)を理解する道が開かれた ―意識と無意識をつなぐ身体感覚と情動 6は、身体感覚と情動について生理学的に論じた内容で、こみいっているため、補足を入れながら二回に分けて紹介します。 ①意識と無意識を生理学的…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一 5

条件反射理論という超唯物論的な研究が今回の内容です。 第四章で紹介したユングが、研究者としての地位を確立したのは、条件反射理論を応用して、無意識とコンプレックスの存在を立証する検査法(言語連想実験)の開発でした。 これは、「お金」「母」など…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一4

近年、アメリカの神経学者・精神科医アントニオ・ダマシオの情動についての新しい考え方が注目されています。これは、脳からではなく「身体から情動が起こる」という立場に立つ見方です。 ダマシオが論じている情動と感情についての注目すべき点は、情動が意…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一 3

今のように感染症のパンデミックが問題になると、病原となるウイルスをターゲットにして、ワクチンや治療薬開発に全力を挙げる研究が脚光を浴びるようになります。 フランスのパスツール研究所、ドイツのロベルト・コッホ研究所などは、「病原細菌学説」の基…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一 2

野口整体と西洋の「心身二元論」的思考― 東洋と西洋の人間観の伝統の相違 心身二元論とは、人間を精神と肉体に分けて捉え、精神とは「理性」であり、理性が人間の魂(心)とされました。心身二元論はデカルトによって確立されましたが、歴史的に西洋思想の伝…

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一 1

一 「心身分離」的見方から「心身相関」的観方へ ― 二元論から一元論の医学へ 今回から始まる第五章は、本では「近代科学的西洋医学と深層心理学の出会い・「心身医学」」という章名ですが、ブログではテーマをハッキリさせるため、変更しました。 新型コロ…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 7

自己知と自己教育の重要性―自我から自己への中心の移動- 無意識の目的論的なはたらきを理解していく過程上で、ユングが特に着目したのは、心の自然治癒力とも言える「無意識の補償(足りないものを補う)作用」です。 補償作用とは、その人が生きていく上で…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 6

精神科医であったユングは、心を病むことについて次のように述べています。 「あらゆる病気と同じように、神経症も適応不全の症状です。なんらかの障害(体質上の弱さや欠陥、間違った教育、良くない体験、不似合いな態度など)のために、人生がもたらす困難か…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 5

クロノスとカイロスのところで紹介した『モモ』(ミヒャエル・エンデ)では、モモは生命時間を司るマイスター・ホラに抱かれて自分の心の奥底にある時間のみなもとを見に行きます。 そこには池があって、大きな振り子が刻むゆっくりしたリズムに合わせ、水の…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 4

ユングの「未来から現在を考える」目的論と野口整体の気の生命観 東日本大震災の後、被災した人の中に PTG(心的外傷後成長)というものが多くの事例で起きたことが世界的に注目されました。 PTGはユングの説いた病症と心の成長に対する考え方と多くの点で共…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 3

今回はユング心理学の心的エネルギー論が中心となります。 ここで目的論という言葉が出てきますが、この点については下巻『野口整体と科学的生命観』に詳述されているので、参照してください。 ユングの心的エネルギー論 深層心理学は無意識を研究するもので…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 2

正心正体で充実した時間を生きる― 全生とは一刻一刻を、全力を以って生きること カイロスは、意識的に管理したりすることのできない時間です。産科の医師が「土日は休みだから、お産を金曜日に済ませる」というように、「人間の誕生」までをクロノス時間によ…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 1③

二つの時間・クロノスとカイロス― 一刻一刻を、全力を以って生きる ③東洋の気の生命観とカイロス 湯浅泰雄氏はクロノスとカイロスについて、次のように述べています(『宗教と科学の間』)。 3 時の動きの内にはたらくもの …カイロスとは要するに、「時は熟…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 1②

前回引用した、生命時間と貨幣経済の問題を主題にした児童文学『モモ』(ミヒャエル・エンデ)では、人間の生命時間を司るマイスター・ホラという不思議な人が登場します。 マイスター・ホラは、あらゆる人間の時間の源である「時間の国」にやってきた主人公…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 1①

四 心の時間と気の流れ ーユングの心的エネルギー論と野口整体の気の観方 今回のテーマは「時間」です。東洋的に「時の流れ」と言ってもよいでしょう。 私が塾生になって最初の年だったと思いますが、金井先生が整体指導を教える練成会で、先生が塾生の指導…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 8

自我の主体性発揮と「感受性を高度ならしむる」 Mさんの指導例にもあるように、私の個人指導では、いつしか活元運動が中心となりました。 その指導の中で、始め尋ねられても思い出せなかった、体を偏らせている不快情動の内容(陰性感情)は、愉気法によっ…