野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

自分のことから始まる金井流潜在意識教育 4

整体式子育て以前の問題

 私は、金井先生の塾生になって一年ほど後に出会った頃、ある女性に出会いました。私は彼女を通じて、整体式子育てにまつわる問題を考えるようになったのです。仮にSさんとしておきます。

 Sさんは仕事に行き詰まりを感じていた頃、野口整体に出会いました。その後、整体を通じて出会った男性と結婚、そして妊娠し、「整体式の出産・育児」を実践することになりました。

 自宅での自然分娩は何とかできたものの、直後の経過に問題があったことと相まって、Sさんは行き詰ってしまいました。当時のことを振り返って彼女が言ったことは「子どもは誰でもない、私を求めているのに、それに応えることができなかった」ということでした。Sさんは赤ん坊の要求に自身の心と体で反応し、感じた通りに動くということができなかったのです。

 彼女の身心はそのための準備ができていないままだった(整体出産が叶わなかったことと、出産以前に身心が未熟だった)というのが一番ですが、そこに「整体式の育児」というものが入ってきたことが問題を複雑にしてしまいました。

 本当は赤ん坊に肉類を食べさせたりするのが不安だったのに、「そうする方が良いとされているから」と本に書いてあることをなぞってしまったのです。その他もそうしてやっていた面が多かったようです。

 また帰宅した夫が子どもを抱いて「軽いね」などと言うと、自分が咎められているような気になり、夫の愛情と承認を求める気持ちの強いSさんにとっては辛いことであったようです。

 こうしたことで、Sさんはお母さんと子どもの自然なつながりを築くことができなくなってしまいました。

 その後、Sの子どもが小学生になった頃、Sさんは知人の幼い子どもを数日間預かることがありました。その時Sさんは、子どもがどうして欲しいかを感じ、それを充たすことができる自分を発見し、野口整体で言われている通りにしようとすることが縛りになっていたのではと思うようになったです。

 Sさんはもともと主観が強く、自分の感じた通りに動きたいという質であり、子どもとの深いつながりを求める人でした。そういう彼女にとって自分らしく子育てができなかった、良い母親になれなかったということは、深い悔いを残すことになり、自分を責めることにつながりました。そして、自分と夫を結びつけることになった野口整体にまで疑問を持つようになったと言います。

 そして彼女は、確かに野口先生の書かれていることは素晴らしいけれど、それを実際にやるためには、なぜそうするのかという根本、原理が分からなければできないのだと思う、と述懐していました。

 Sさんは、野口先生の本に書いてあることを信じてやることが、子どもの要求に沿うことだと思ってしまったのですが、そこに大きな落とし穴がありました。

 当然のことながら子どもは「整体式子育て」をやりたいのではなく、他の誰でもない「お母さん」に自分の要求を受け取ってもらい、充たしてほしいだけです。それは野口整体だからではなく、子どもの自然、本能なのです。

 大人が子どもの要求に応えて行けるようになるために、そして子どもの自然を歪めず育てるために、整体というものがある。つまり「自分が整体である」ということなしに、整体式子育てなどありえない、ということなのです。