野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

自分のことから始まる金井流潜在意識教育 6

 全生思想を自分の生き方にするために 

 そして私は、「整体式の出産・育児」をやってみたいと思う人の中には、自身の裡に親に対する不満や批判があったり、野口先生が厳しい視線を向ける親ではなく、子どもの立場に感情移入する傾向があり、その上身体的な基礎がない人が多いことに気づきました。

 それは子育てのみならず、整体指導をする立場においても同じことが言えるのです。もちろん私自身とも共通する問題であり、私も成育歴の影響を脱するのにも、潜在感情が鎮まるのにも時間がかかりました。

 潜在意識教育で大切なことは、「全力発揮できない」「一つことに集中できない」「意志が行動にならない」「人との関係に悩んでいる」といった、自分の「生き難さ」を超えていくために、過去にあった原因とその影響に気づくということにあります。整体を保つ、全生するという理想をお題目にしてしまわないで、マイナス地点に立っている自分から一歩ずつ近づいていくのです。

 そして、もう一つ大切な実践として、自身の情動(感情)への気づき、そして情動に身体を支配されている状態を不快と感じられるようになること、そして身体的に情動を鎮める、そして制御することができるようになること、を指導するのが金井先生の潜在意識教育の柱でした。

 これらは説明するだけでは実感が持てないと思いますが、自分を支配している潜在意識の正体というのは、実は鎮まらない情動なのです。これが体の抵抗力を弱らせ、自分を消極的に方向づけてしまうのです。

 

 こうしたことについてはまた改めて詳述していきたいと思いますが、野口整体の潜在意識教育を、まず「自分を育てる道筋」として学んでいくというのは、金井流の端緒というべきものです。

 ここで言う自分とは、自分の中の子ども、成長が止まったまま置き忘れてしまった心のことで、『病むことは力』には、先生自身の成育歴がつづられています。

 詳細は同著をお読みいただきたいのですが、金井先生は家庭環境に恵まれず、「自分は体が十分ではない」と言われることもありました。

 このような先生が、正心正体で生きるため、また志を実現するために行ってきたのが「自分のことから始まる潜在意識教育」でした。またこれは、私にとって金井先生の弟子であるというアイデンティティ?の核ともなっていることです。

 金井省蒼著『「気」の身心一元論』の中にもこの内容は出てきま述べられていますが、「自分のことから始まる」というのは、ユング心理療法家であった河合隼雄氏が、と述べていることに、大いに共感したことに由来しており、河合氏は次のように述べています。

・・・臨床心理学はフロイトにしろユングにしろ、自分のことから始まっているんです。

・・・フロイトユングは、自分で自分の研究をした。深く深く心を研究していくと、こういうことがある――と言っているわけですから、これは近代科学とは全然方法が違うわけです。つまり、研究する人もされる人も同一人物です。(河合隼雄『日本人という病』) 

ユング心理療法家になるには、「教育分析」といって自分が分析を受けることが必須であり、実際に自分にユング心理療法を適用して、無意識(自己)やコンプレックスについて学んでいくことが核となっています。これが自分とは無関係に成立している科学的方法論を学ぶ時との決定的な違いだというのです。