野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

この体は骨盤が頭だ 1 私の金井流個人指導体験

私の指導体験

私がずっと以前に個人指導を受けた時に書いた体験談を二回に分けて紹介したいと思います。この拙文を通じ、金井先生の個人指導の実際を感じて頂けたら幸いです。

 人によって、また時と場合によって指導内容には多様性があり、質、時間共に大きく変わりますので、決して一般化することのできない体験ではありますが、忖度抜きに実例を紹介したいと思い、ここから始めることとしました。

 一個人の一臨床例として、お読みいただけましたら幸いです。

 

 「この体は骨盤が頭だ」1

ショックな出来事

 塾生になって半年ほど経った頃、私は年齢とともにアルコール依存が進んだ知人から相談を受けていた。彼は私が野口整体を学び、金井先生の弟子となったことから、金井先生の指導を受けたいと言い、私は彼を紹介した。そして一回目の指導を受けた後のことだった。

 彼は生き直すことを切望していて、指導を受けそれを実現しようと心に決めたようだった。しかし彼の奥さんが逆上し「指導のせいでおかしくなった」と騒ぎ出し、彼を強制的に精神病院へと入院させてしまった。そして私の実家や道場にも怒りの電話をかけ、当然私にも電話をしてきたのだった。

 私は立っていられないほどのショックを受け、目の前が真っ暗になりそうだった。それから私は自分では何とか気を取り直したつもりだったが、ショックで偏り疲労が起き(その時は分からなかったが)、だんだんと恐怖と不安に支配されるようになって行った。

 問題の彼が精神病院で廃人になったり、彼が飴のように溶けてしまったりという悪夢を見るようになり、夢を見ては泣くようになった。そして借りている家の仏壇が気になり出して、霊がいるのではないかなどと変な空想をするようになってしまった。

 そして次第に、自分が宙に浮いているような感じがしてきて、人と話す時も表面的な受け答えしかしていないと漠然と感じるようになった。活元運動もなるべく毎日するようにしていたが、活元運動をやろうという気が失せてしまっていた。

 そういう日々が二週間ほど続いた頃、私は本棚の前で本を読んでいた。その時、何がきっかけだったか忘れたが「奥さんは私と彼が恋愛関係にあると思い込んだのだ」と、はっと気づき、思わず立ち上がった。

 すると本棚の扉が半開きになっていて、立った拍子に思い切り腰(腰椎四番と五番)をぶつけてしまった。一瞬痛みが走ったが、すーっとその痛みは消え、同時に腰の力も抜けて私は坐り込んでしまった。なんだかこれまでのことが全部現実のことではなかったような、「あれ?」という気がした。

 その後、泣いたり怖くなったりという情緒不安定が消え、今度はすべてのことに現実感がなくなってしまった。つながりのない、自分とは無関係な世界を眺めているようで、何にも興味が持てなかった。人と話す時も、ガラス越しに話をしているような感じがした。

 私は自分がおかしい、変だと思いながら、何の手立ても打つことができなかった。自分がどんどん一人になって行くような気がして、時間の流れからも取り残されているようだった。自分だけ時が止まっているような気がした。

 そして先月予約した指導の日が来たのだった。