野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

本来の体育としての活元運動―禅文化としての野口整体Ⅱ 6

体力発揮とは何か

 今回は、三 活元運動を本来の体育と説いた師野口晴哉 ― 科学的体育と禅的体育(29頁)からです。

 2020年は東京オリンピックの年です。日本人の競技能力は向上し、メダル獲得数も期待されていますが、少し前にメダリストである女子水泳選手の白血病が公表されました。

 競技者生活との関係は分かりませんが、私にはこのニュースが何かの警告のようにも感じられ、この教材にある「本来の体育」を思い起こしました。そこで今回、当時の時代背景も含め、読み直してみようと思います。

 今回の内容は、「健康に元気に生きるために必要な体を育てる上で何が大切なのか」ということと、「意識して体を動かす運動は整体で意味する体力発揮にはつながらない」という二点が主題となっています。

「スポーツは悪だ」とかそういう意味ではなく、競技スポーツをする能力とは違う身体能力があり、健康のためにはそちらを育てることが重要で、活元運動はその目的に合致しているということです。

 この「本来の体育」の講義が行われたのは1969年です。東京オリンピック(1964年)が開催された60年代は、国民の体力発揚ということが政府主導で盛んに言われた時代でした。

 金井先生入門の前年、1966年に野口先生は「整体協会は体力づくり国民会議」参加し活元運動を広めようとしていました。

 その甲斐あって昭和1967年(金井先生入門)から活元会が全国各地で開かれるようになりますが、野口先生はその過程で政府が推進する「体力づくり」と先生の「体力づくり」は考え方が異なるという問題が出てきました。

 野口先生が考える体力とは自浄作用、異化・同化作用、恒常性維持機能(自然治癒力)という「体の中の力」のことです。そして、それを発揮し充実することが体力発揮なのだと伝えていく必要に気づいたのです(『月刊全生』より)。

 野口先生は1969年の「本来の体育」で「理念が伝わらないままに活元運動をやっている人が多い」と嘆き、活元運動の方向性について、

「…衛生の理念を正すという意味で活元運動を理解させ、普及させたいのです。

…その理念を説明し、整体のパターン(整体とは何かという思想)を明らかにして、それから活元運動を勧めるようにやり方を変えました。」

と述べています。

 野口先生の考える体育とは「整体とは何か」という理念を学びながら錐体外路系運動の訓練・活元運動を実践することでした。活元運動の目的は「意識以前の要求による体の使い方」を身につけることなのです。そして先生は活元運動の方向性について次のように説きました(『月刊全生』)。 

・・・活元運動も、これで病気を治すとか健康法のつもりでやれば、空想したような効果が出るかもしれませんが、私はそれを望んではおりません。あくまでも、人間の体の外路系運動の訓練です。意識以前の心(の声)がもっと素直に聞けるような敏感な体を作り出してゆくためです。 

晩年の弟子である金井先生は、このような野口先生の考えを受け「思想を通じて理解する活元運動」というテーマを打ち出したのだと思います。

 

(補足)運動系=錐体路系・錐体外路系錐体外路性運動系)

運動系は、神経系のうち、全身の運動に関わる部分をいう。錐体路錐体外路の二つに大きく分けられる。

錐体路系は延髄の錐体を通り随意運動を司るとされる。中枢は大脳皮質のうち、中心前域と頭頂葉領域にある。

錐体外路系は脳と脊髄(中枢神経系)の内部で、全身の筋肉の運動の指令を伝える経路(伝導路)のうち、「錐体路以外のもの」をまとめて呼ぶ言い方。中枢は様々ではっきりしていない。