野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

(補)野口整体の行法の基にある「生命に対する信頼」を育む思想

 下巻『野口整体と科学的生命観 風邪の効用』で、金井先生は野口先生の文章を引用し、行法の基にある思想に野口整体たるゆえんがあることについて述べています。

 活元運動をはじめとする整体の行法を実践する上で大切な内容ですので、ここに紹介します。

自然治癒力とは病症を経過する力

 野口整体の行法である「愉気法・活元運動」は、昔から行われてきたものでもあります。愉気法は「手当て」ですし、活元運動は「霊動法」でした。そして活元運動に類似するものは世界中にあり、よく知られたところでは中国気功法の「自発動功(註)」です。

 しかし、これらの行法を行う上での考え方・思想には、革命的と言える「生命哲学」が存在しているのです。

 これらは「病気治し」のために行うのではなく、病症を経過させる「生命の力」を活性化させるために行うのであり、治るのは生命力が発揮された結果なのである、という「生命に対する信頼を育む」思想に裏付けされているのです。

このような思想の流布が師の最も望むところでした。

 師は自分が生きているという「生命に対する信頼」の問題について、次のように述べています(『月刊全生』)。

 

整体の立処

 我々がやっているのは、病気を治すことでもなければ、新しい健康法や養生訓を主張して、余分に人間の頭を忙しくすることでもないのです。ただ、自分の健康を保つ力を人間は裡に持っているのだということを教えているだけなのです。そして、その裡の力を自覚し、それによって自分の健康を自分で保っていく心構えを持つ人が増えていくことを望んでいるのです。

 しかし病院では、体の要求を無視して、眠れなくなったのを睡眠薬で寝かせ、食欲がなくなったのを無理に食べさせたり、食べなければ栄養剤で補給したり、せっかく熱が出てきたのに、熱を下げるような方法を講じたりする。

 それなら、首を切れば熱などすぐ下がるのです。生きているから熱が出ているのですからね。その熱を下げるというのは、体を壊す行為です。体に無理な熱など出るわけがないのです。体に無理がかからないようにするために体がわざわざ熱を出してくれているのです。

 それでは危険なこともあろうと言う人もいます。しかしそれはその人が自分の生きているということをどう信ずるか、その生命に対する信頼の問題なのです。

 いろいろな工夫をして治したり、丈夫になるために外の力に頼って鎧を多くするほど、生命に対する信頼感が薄くなるのです。いろいろな手段を使って病気を治すほどに、健康に生きるということについての自信がなくなるのです。

 私は今年で五十年こういうことをやっておりますが、だんだん自分の生きていることに信念を持ち、だんだん自分及び自分の家族の生きていること、或は自分の会員の人たちの生きていることに確信を持ち、何にもしないで丈夫になっていく方向に進んできております。

(註)自発動功 活元運動のように、変性意識状態で自律的な身体運動を誘発する気功。