野口整体で健康を説くのは、病気にならないようにするためではありません。そのことについての文章を紹介します(原文旧仮名遣い『野口晴哉著作全集 第一巻』)。
全生のおしへ 二
生命は決して凭りかかりたがらない。
健康は勇気だ。思うことを行える。考えたことは言える。感じたことが表現できる。
病気でも直きに治る。転んでも怪我はしない。苦しくても直ぐに良くなる。悪くなることはない。何を食べても美味しい。大便を出しても心地が良い。ぐっすり眠れる。楽に働ける。愉快に仕事ができる。疲れても不快にならない。暑くも寒くもない。風呂から出たての気分そのままだ。風が吹いても雨が降つても愉快だし、晴れても曇つても嬉しい。鳥が啼いても花が咲いても悦ばしい。日が出ても月が出ても娯しい。
健康は外内界の刺戟に良く適応調和して、それらの発動によって心身の状態を攪乱されることがない。
どんなことに逢っても安らかだ。そして健かだ。より伸びる、より良くなる。決して止まってはいない。健康は伸びる力だ。
誰の生命だって、いつも健康になろうなろうと働いているのだ。健康に生きることは自然に生きる所以だ。健康なことは人の生くる自然の道なのだ。
国家の隆昌も社会の平和も、一家の繁栄もみな健康という原動力によってのみその目的は達せられる。健康を無視して、幸福も喜悦も快楽もあろうはずがない。健康! 健康が万事の土台だ。
健康のない生活は、土台のない家のようなもので、大きくならばなる程にその危険を増す。
どんな良い境遇、どんな良い国家社会に住まうとも、それは胃病患者が御馳走に囲まれているようなものだ。
王冠は頭痛を癒さぬ。
健康は自分を楽しくし、人を愉快にし、世の中を明るく愉快にし、世界をより良くする原動力となって、宇宙維持の使命に直往する。
健康は全生へのただ一つの道だ。それ故、健康に生くる─自然に生くることは最も尊い。
野口晴哉 昭和十一年(一九三六年)