野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

「念ずれば現ず」潜在意識と不快情動―風邪の効用 17

念ずれば現ず

 今回は、潜在意識化した不快情動が現実にどのように作用するのか?についてです。

天風哲学には「観念要素の更改」という教えがあって、潜在意識内の雑念妄念を生み出す「観念要素」をクリーニングしていかなければならないと教えています。天風師の意味する心とは意識ではなく潜在意識のことなのです。

 南方哲也氏はこれを次のように解説しています(『天風入門』)。

 

・・・怒り、恐れ、悲しみ、恨み、嫉み、憎しみ ―― これらの消極的な観念要素が潜在意識の中で重要な位置を占めていると、弱った、困った、希望が持てない、お先真っ暗だ、とてもやりきれない、死んだほうがましだ ―― などといった消極思考が心の中で渦巻きます。

さらに、心配、煩悶、不安、焦慮、失望、落胆といった消極感情が実在意識の領域を占拠していくようになります。消極的な観念要素が潜在意識の領域を占拠し、それらが実在意識領に再生されて、思考や感情の成立に悪い影響を与えていくのです。  

 金井先生は中村天風師の「潜在意識が人生を方向づけている」ことについての引用(『ほんとうの心の力』)の後、次のように述べています。 

心にないことは生じない

・・・およそ人間の身の上には、その人の心のなかにないことは生じないんだぜ。みんなこれがわかってない。思ってもいなかったことが、現実の自分の人生にできあがったといっても、それを自分が無意識的に思っていたことに気がつかないで、意識的に思ったこと以外には思ったことじゃないと、こう思ってる。

 だから、実在(顕在)意識が、感覚的に思ったことだけが思ったことで、感覚できない潜在意識のなかで描かれた絵図が、現実の恰好に浮かびだしてきた場合には、ちっとも自分には責任がないと感じる。要するに無意識の意識がその原因をなしているんだ。

 人間の身の上には、その人の心のなかにないことは生じない。言い換えると、すべての出来事は、心の内部から、自分が知る知らざるとを問わない、心の内部から掲げられた合図によってつくられる。

 我々人間の生きてる背後には、始終そこに、その人の思い方のとおりに物をつくろうとする力が控えてるよ。現象の背後には必ず実在あり、ということだ。

(実在・・・宇宙霊・生滅変転する現象の背後にあるとされる常住不変の実体)

(金井)

 潜在意識にある消極的な「観念要素」を改め、心を積極(せきぎょく)化していくのが「観念要素の更改」です。

 これについて、天風師が説く「感覚できない潜在意識の中で描かれた絵図」という、意識できない心のはたらき(潜在意識)と身体の関係を、野口整体金井流の視点から述べてみます。

 不快情動による身体の「硬張り」によって堰き止められた「感情エネルギー」は、無意識的に「煩悶・葛藤」を起こし、潜在的な想念となり、日々の思考や生活の背景となります。心に不平を抱えていたら、棚に頭をぶつけたり、つまづいて転んでしまったりすることは、誰でも体験するその小さな一つです。

 こうして、想念を現実化するのが「潜在意識」のはたらきです。

 こうした心のはたらきを、師野口晴哉は「念ずれば現ず(想念の現実化)」(『偶感集』)という、積極的な言葉で表しています。

これは、潜在意識のはたらきは負の部分だけではなく、「無心・天心」の心に生ずる明るい「想念」も、また実現していくことを意味しています。

 無心、天心の状態は、「今」に順応できる、それは、宇宙真理にも順応できるということです。

 しかし、「価値の無い消極的感情情念」に取り付かれていることは、過去に起きた事に囚われていることです。つまり、過去に生きているようなものですから、「日々更新の宇宙真理」に合致しなくなるのです。

 それで、整体を保つことは、潜在意識をクリーニング(観念要素を更改)することであり、自分の身心の状態に対する自覚を持つことで「日々更新の宇宙真理に順応する」ことになるのです。

 この原理を活かし、「心が更新される(明瞭な意識を取り戻す)」とはどのようなことかを体感し、意識と無意識の結びつき(心身の統一力)を十全ならしむることが個人指導の目的です。

 心身の統一力が十全であることによって、如何なく潜勢力(潜在生命力)を発揮することができるのです。