野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

熟睡による潜在意識の整理―風邪の効用 19

 金井先生は、野口整体の活元運動と個人指導は「身体に停滞した負の感情エネルギーが取り除かれることで、「正体・正心」を取り戻すのが目的」と説きました。

 また、観念要素の更改(潜在意識のクリーニング)には自分という意識と身体との関係が密接になることが必要で、身体感覚を通じて自身の潜在意識を自覚する重要性を説いています。

 不快情動の影響で消極的になりがちな人は、必ずと言っていいほど「腰が入らない」もので、いくら意識的にポジティブシンキングであろうとしても実体がともなわないのです。

 こうした自分の身心を理解し、消極的な感情想念を断ち切る主体性を発揮するためには「腰・肚」を鍛えることも必要です。

 金井先生は「内界を認知する主体としての自我の発達」が必要であるとも説いていますが、これは身体感覚が発達することで自分の内面を意識化できるようになること、そしてそういう自分について謙虚に受け止め反省する理解力を高めることを意味します。

そして、次のように述べています。

 身体感覚の発達は「身体意識」(身体の持つ感覚や判断力、そして感性)を向上させます。身体が統一している時の「調和感」に心地よさを感じ、これが保持できる身体になる(=型が身に付く)と、身体意識がはたらくようになります。潜在意識や無意識というものは、身体意識によって理解できるようになるのです。

 中村天風師が説く「観念要素の更改」には、「寝る時には、真珠を薄絹で包んだような心になって眠る」という「身心を正す上で睡眠の持つ自然治癒力を以て行う」という行法があります。

 この「熟睡」についての天風師の引用文の後、金井先生は整体的修養について次のように説いています(『天風先生座談』)。

十二

いったん寝床へはいったら最後、どんな辛いこと、悲しいこと、腹の立つことがあったにせよ、それをどうしても考えずにいられなかったら、明日の朝、起きてから考えることにするんだ。寝ることと考えることをいっしょにしたら、寝られなくなっちまうぜ。

…寝ている間、あなた方の命を守ってくれている造物主は、ただ守ってくれているばかりでなく、疲れた体に、蘇る力を与えてくれている。

昔から言うだろう。「寝る子は育つ。よく寝る病人は治る。」その力をうけようとする前に、眉に皺よせて恨んだり嫉(そね)んだり、泣いたりするなんて、罰当りなことはしないようにするんだ、今夜から。

…夜の寝がけは、それがたとえ嘘であってもほんとうでも、その考えた考え方が無条件に、われわれの潜在意識の中に、すっとはいって来る。

…寝がけにくだらなくものを考えて、心配するてェと、必ず神経衰弱になる。

(金井)

 個人指導における愉気法や整体操法の主要な目的は、身体の「脱力を図る」ことですが、これは「深く眠る」ために他なりません。不随意的な筋緊張は熟睡を妨げるからです。「弛みきれば緊まる」という原理があり、熟睡することでこそ、明日の活力を得られるのです。

 これは、無意識、つまり自律神経系の働きに委ねて眠ることですが、充分な脱力をするまでが意識の責任、自己管理能力というものです。

・・・自発的・積極的な自分であるためには、深部(背骨の周辺部)までの脱力ができることが大切なのです。

 そのためには、寝る前の時間(お風呂で汗を流し、さっぱりした状態が望ましい)に、感情が鎮まった、静かな心(無心)になることです。

「正しい正坐」とストレッチで脱力した後に活元運動を行なって頭の硬張りを解きほぐし、一日の緊張から解放されると、「脳」は「初期化」されます。

 このような状態で眠りにつくことが大切です。そうして熟睡できると、睡眠中に脳が自ら記憶を整理し(=雑念を払っ)てくれ、翌朝にはすっきりとした目覚めをもたらします。

・・・天風哲学では「雑念を払う」ことを重視していますが、これは心身の統一力を発揮するためです。眠っている間に、脳は記憶を整理する(=雑念を払う)はたらきを行なっていますから、熟睡できれば統一力は回復するのです。

 心身の統一力と自然治癒力は深い関係があり、熟睡は「潜在生命力(自然治癒力)を喚起する」上で大切なことです。

 脱力することと、「正しい正坐」によって骨盤部がきちんと働くと、自ずと副交感神経の働きによって熟睡に向かうことができ、自然治癒力が喚起されることになります。こうして身体を弛め、「真珠を薄絹で包んだような心」で熟睡することを習慣づけると、自発的、積極的な生活となって行きます。