自分を理解するために必要な自我とは―風邪の効用 25
自分を理解するために必要な自我とは
ここで、中巻と下巻にわたって扱われている「自我の再構成」と「自我の強化」についてまとめておこうと思います。
風邪の効用 23で湯浅泰雄氏の文章を引用しましたが、その中で湯浅氏は次のように述べています。
・・・外界に適応して自我というものが形成されていくわけですが、近代では、外界に対する適応と心身のコントロールばかり考えて、内面的な情動や無意識の世界に対する適応と心身のコントロールということの必要をまったく無視してきた。
・・・外界に対する適応という問題ばかりでなく、内なる世界に対する適応について考える必要が出てくる。それはつまり、外界に対する人格の統合中心である自我意識だけでなく、内向的世界に新しい人格の統合中心を求めて行くことだといってもいいと思います。
Nさんは、アメリカの大学を卒業した知的能力の高い女性なのですが、指導を受け始めた当初、自分を理解するために必要な「自我」は弱い、という状況にありました。
理性的思考や、言語能力といった、外界に適応することは自我の能力の半分(またはそれ以下)でしかなく、「情動や無意識の世界に対する適応と心身のコントロール」という内界に適応するための自我が、健康に生きる上で重要なのです。
中巻『野口整体とユング心理学』の はじめに で、金井先生は野口晴哉先生の講義にフロイトの精神分析学が活用されていた時期があること、そして「潜在意識(無意識)に陽を当てる」という表現で、「意識しない心のはたらきが自身を支配する」という深層心理の原理を説いたと述べています。
潜在意識が自分を縛っている、能力の発揮を妨げている状態を、意識化して明瞭にすることで、支配力を失わせるということです。
そして、金井先生は上巻第一部第一章一 1にある、
この世界に入って一年未満の時だと記憶していますが、師野口晴哉の講義を通じて「人が病気になるとはこういうことか!」と、私の病症観に革命が起きた、あの時の感慨が蘇ります。
という文章を引き、「この感動が、潜在意識(心)に関心を持ち、自身の整体指導のあり方へと進む出発点となった」と述懐しています。
しかし、本当に自分を理解するためには、それまでの意識の態度を変え、内側に注意を向ける自我を育てていかなければなりません。
身体的側面が中心となる整体ですが、そこには「心を整える」という目的があるのです。金井先生は中巻『ユング心理学と野口整体』で次のように述べています。
整体となる目的は、自発的な生活を送る(=主体性を発揮して生きる)ことにあります(整体とは意識が明瞭な状態)。それは、自身の「裡の自然」に沿った自我を確立することなのです。
「自我の主体性」という表現は、河合隼雄氏の著作を通じて用いることができるようになったのですが、このようにユング心理学を勉強したことで、野口整体の個人指導を「人間の意識(自我)」の側から見直すことができました。
次回も続きます。