野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

脊髄行気法-気の思想と目的論的生命観20

「心を無にし、息を整える」気と呼吸による精神文化

 最初に、中巻『野口整体ユング心理学』から、整体指導における気についての文章を紹介します。金井先生は次のように述べています。

整体指導における「気」
 野口整体の生命観は、「気の医学」の伝統を受け継ぐもので、師野口晴哉は、整体指導で「気」を扱うことについて次のように述べています(『整体法の基礎』第一章 技術以前の問題)。

(八)〈気〉(三九頁)
 整体指導の技術の基は、この気をどう使うかということだけで、心とか体とかそういうものにはこだわらない。気の停滞、気の動かし方、気の誘い(いざな)、気の使い方といったように、体に現われる以前のもの、物以前のものを、物以前の力で処理していく、それが技術の基になります。
 だから、 “胃袋を治すにはどうしたらいいか”と訊かれても私は、胃袋など観ていない、気のつかえを観ているのです。気のつかえを通るようにする、鬱散するようにする、足りない処には巡るようにする。私の観ているのは気だけなのです。レントゲン写真を撮ったら、こんなふうに曲がっていたとか、こんなふうに影が出ていたとか言っても、それは物の世界の問題なのです。気の感応で気が通れば、どんなに曲がっていても真直ぐになるのです。頭の中の細胞がああなっている、こうなっているといっても、そんなことは問題ではないのです。
 手を当ててよくなるものはよくなるが、よくならない感じのすることがあります。それは気の停滞、つかえなのです。

 野口整体での養生とは、自然健康を保持するため「整体を保つ」ことです。このため、「上虚下実」の身体(丹田が中心)と「天心」であることを目標にします。
 整体とは「異常に敏感な状態」であり、さらに「調和感に敏感」であることが望ましいのですが、これには、身体(からだ)と精神(こころ)がどのようであるかを、「気」で感じることが肝要です(これを師は「整体とは敏感な体」と表現した)。
 このためには身体感覚がはたらくことですが、頭が忙しく重心が高い(=気が上がっている)状態だと、体の様子を感じることができなくなるものです。身体感覚は気の状態と関係が深く、気が鎮まっている時に鋭敏にはたらくのです。
ことに江戸時代までの日本人には、気に対する鋭敏な感性があり、日本の伝統文化は〈気と息の文化〉とも言われるほどです。
 野口整体の基本となる「愉気法」は、呼吸法により「自身の気を調える」ことで人に行えるようになるもので、まさに〈気と息の文化〉の象徴と言えるものです(整体指導は「気を調える」こと)。


 では、今回の主題「脊髄行気法」についての内容に入ります。


(金井)
 私の個人指導の要点「情動による硬張り」に対する整体操法は、「心を無にし、息を整える」ことにあります。
 古来東洋では、健康法として「呼吸法」に着目してきました。健康のためだけでなく、大事なことは呼吸が深くなることによって、思考が深く、精神性が高くなることです。
 野口整体では、脊髄行気法という「背骨で呼吸をする」行法があります。感じが掴めるまで相当修練に年月がかかるものです。これも、伝統的な日本の身体文化であり、東洋宗教文化の説く「精神性」を啓くために「身体性」を高めるというものです。
 身体性を基盤とすることで、日本人の精神性の高さを保ってきたのが「肚」というものです(肚は、丹田を身体感覚で捉えること)。「腰・肚」に力を充実し頭を虚しくすることで、「上虚下実」の身体(=無心)を養ってきたのが「型」の文化でした。
 脊髄行気法を行うには、正坐をして先ず背骨を意識します。
 頭を下げると飛び出すのが、頚椎七番で、その下に、胸椎が十二個あり、さらにその下に五つの腰椎があります。
脊椎骨の中には脊髄神経が通っています。その神経の中心には細い穴(中心管)が空いているのですが、それを、首から腰までストローのようにイメージをします。
 頸椎七番から腰椎五番まで、脊髄神経の穴をイメージして、首の付け根から腰まで息を吸い込んでいくつもりになるのです(吐く時は意識しない、または丹田に吐く)。これが「脊髄行気法」です(身につけば、頭頂の大泉門より吸う)。
内観呼吸法・活元呼吸とも呼ばれますが、これについて、師は次のように述べています(『健康生活の原理』全生社 1976年)。

愉気について
背骨で呼吸するというのは、背骨の中の脊髄の中心管で呼吸するつもりで呼吸するのがよく、この呼吸法を私は〝呼吸〟と称しております。その説明は非常に困難ですが、ともかく最初のうちは、背骨で呼吸するつもりでよろしいのです。

 息をするつもりで何回かやっているうちに、背骨が温かくなってきて、汗が出てきます。…疲れたときに背骨に息を吸いこむと、たちまち背中に汗が出て、ポキポキ音がして、疲れが抜けてしまいます。
心が統一すると、バラバラの心では判らなかったことが判り、感じられないことが感じられるようになるのです。

…感覚が敏になると、世の中がこうも豊かに美しく感ぜられるものかと、自分で実行するたびに驚いております。