野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

瞑想法と心理療法―野口整体とユング心理学 はじめに②

意識しない心のはたらきが自身を支配する

 西洋では、人間の体を物として研究し発達した近代医学に対して、心を研究するべく、ジークムント・フロイト(1856年生 オーストリア)の精神分析学を始めとし深層心理学が発達しました(同じ学派にはアドラーユングがいる)。

野口整体深層心理学」という関係は、師野口晴哉フロイト研究に始まっています。師の講義には、フロイトの「精神分析」の内容が多用されていた時期がありました(師の講義ではユングの名は聴いた記憶がない)。

 その内容の一端は「潜在意識(無意識)に陽を当てる」と表現され、「意識しない心のはたらきが自身を支配する」という深層心理の原理が説かれました(支配には、悪い場合のみならず良い場合がある)。

 師は、漠という言葉をよく用い「漠としている」ことが持つ力を説いていました。

 自分を縛っている(能力の発揮を妨げている)状態に対し「心の深層に光を当てる(分析して明瞭にする)」ことで、その力を失わせるという内容です。

 もとより師は、「心理療法」の臨床世界一とも言える人で、後年には、心理療法を教育的なものに育て「潜在意識教育法」とされ、その講義の中で、私としての「心療的なもの」の基礎を学びました。

 上巻(『野口整体と科学 活元運動』第一部第一章一 1)で、私は病症と心の関係について述べ、野口整体の病症観について次のように示唆的に表現しました。 

この世界に入って一年未満の時だと記憶していますが、師野口晴哉の講義を通じて「人が病気になるとはこういうことか!」と、私の病症観に革命が起きた、あの時の感慨が蘇ります。

 この感動が、潜在意識(心)に関心を持ち、自身の整体指導のあり方へと進む出発点となったのです。 

無意識を啓くため身体を開墾する野口整体

―「自分の健康は自分で保つ」活元運動は瞑想法

 野口整体の整体指導は、活元運動指導と個人指導からなります。活元運動を行ずることは、自分の裡にある力を自覚し、生きる主体は自分自身だという気構えを築くことが目的です(主体性の発揮。「自分の健康は自分で保つ」という主体性の確立)。

 師野口晴哉は、意識が閊(つか)えたら(意識が不明瞭になったら)「意識を閉じて無心に聴く」と言われ、活元運動を励行されました。

 活元運動の起源は、師が古神道に伝わる「霊動法」を体験したことに始まっています。霊動法の流派の中には、ある種の霊がその人を動かし健康に至らしめるという解釈もあり、迷信的な捉え方になりがちでした(狐憑き、神懸かりなどと呼ばれることもあった)。

 師は自らの実践を通じてその本質(こうして体は治るようにできている)を見抜き、霊動法として伝えられてきた身体のはたらきを、西洋医学の生理学的な理解・「錐体外路(性運動)系」の訓練として位置付けました。

 そして、「生きていることの理解と自覚」という思想(「全生」思想)を通じ、積極的に健康保持に役立てるようにしました。のみならず、「整体」に深層心理学を取り入れた師は、活元運動を、無意識を啓くための「身体を開墾する」行とまで高めたのです(生理学と深層心理学導入による、東洋宗教文化の近代化)。

「自分の健康は自分で保つ」ための活元運動は「動く禅」とも呼ばれる瞑想法なのです(詳しくは上巻『野口整体と科学 活元運動』第二部、また、禅Ⅰ『活元運動』参照)。