野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

瞑想法と心理療法―野口整体とユング心理学 はじめに③

ユング心理学を援用し「私の心療整体」を著す― 開放系の身心と全生・自己実現

 私は、『病むことは力』のおわりに で、私の整体指導は「心療的な整体指導」であり、これは「自然流」である、と述べました。

 そこでは、私の「自然流の心療指導」について、「…自己の持つ潜在能力に目覚め、これを発揮しての生活者(「生きる」を活かす人)となるのです。」と述べています。

『病むことは力』出版は、職業的立場における私としての「自我の確立」になったと思われます。こうして、現代社会に野口整体(野口法)の一継承者としての立処を明確にすることができたという思いです。

 ここ数年、私は戦前生まれの五氏(井深大・湯浅泰雄・石川光男・河合隼雄立川昭二)等(ら)の思想(哲学的思考に依って得られた意識の体系)を学び、東西の世界観や科学哲学、そして東洋の生命観を学びました。

 こうして、野口整体という智がどのようなものであり、その歴史的な意味や社会的立脚点を諦観することができたのです。

 そして捉えたのが、人間の意識・理性を発達させる近代科学と、潜在意識・感性を発達させる東洋宗教という対比でした。

 湯浅泰雄氏の著作からは「ユングの思想」を、河合隼雄氏の著作を通じては「ユング心理学」を勉強してきました。私自身の思想傾向もあることと思いますが、両氏を通じて、師野口晴哉の思想が「ユングの思想」と極めて類似することについて、深い感慨を持つようになりました。

 それを上巻(『野口整体と科学 活元運動』第一部第二章二 4)で、次のように表現しました。 

 ユング心理学における「自己実現(個性化の過程)」とは、外的世界との交渉の主体である自我は、自己との心的エネルギーを介しての力動(註)的な運動で変容・成長し(自我が自己との相互作用で成長し)、理想的な「完全な人間」を目指すというものです。

(註)力動 正しくは精神力動といい、心の営みが生み出す力と力が織りなしていく動き(葛藤・否認など)のこと。

  自己が実現するには、他者との気のつながり(=開放系)によってのみ可能なのです。

 私は、多くの人が野口整体愉気法・活元相互運動 ― を身につけることで、「相手を活かし、自身が活かされる」というつながり合ったシステム・開放系となっていくことを願っています。

  ユング心理学との縁ができたのは、『病むことは力』出版の後四年程を経てからのことですが、本書では、私の心療整体とユング心理学の思想との共通点を論じていきます。

 私が捉えた「生き方」としての野口整体に、本書を通じて触れて頂きたいと願っています。

二〇一四年 立夏