野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口晴哉生誕百年―臨床心理による整体指導 序章 一1

野口晴哉生誕百年 

 今日から、中巻の序章に入ります。野口晴哉生誕百年、となっていますが、原稿の副題には「西洋医学に見る機械論的生命観」とついています。

 金井先生は上巻『野口整体と科学』のはじめに で、「1926年(大正15年)四月、東京入谷に道場を開き、当時の近代医学では救われない人々のために、本格的に活動を始めた」と述べ、次の文章を引用し、2011年の東日本大震災について述べています。序章に入る前に、ここをまず紹介します。(『月刊全生』1966年)。

 

野口先生誕生祝賀会

…ともかく修繕したり庇ったりして健康を保とうという方法は人工的の健康を作ろうとして却って自然の健康状態を弱くしてしまうのではないだろうか。余分に護れば弱くなる。庇えば庇うほど弱くなる。人間の体はそういう構造に出来ている。弱ければ弱いなりにその体を使いこなし自分の力で丈夫になって行く。そういう健康に生きる心構えが要るのではないかと思う。病気になると自分の中にある潜在体力をすっかり棚に上げてしまって、一切他人任せにして治してもらおうとする。…健康を保とうとする人工的な方法は結果として体を弱くしてしまう。そういう人工的な健康ではなくて自然の健康を保つ考え方が要るのではないかと、集って来た人達に話をしまして大正十三年の九月十八日に自然健康保持会というのを作りました。…それからずっと私は自然健康保持という面に努力して参りました。

野口晴哉生誕百年」に当たる二〇一一年の三月十一日、三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震が起きました。

…当時、東北地方の避難所生活を送る人々の様子をテレビで見るにつれ、私の立場から目についたのは、何らかの医薬を常用する人が、薬が手に入らないことで不安な日々を過ごしている、という様子でした。

 このような大きな災害は、おそらく太平洋戦争中と直後の混乱に次ぐものでしょうが、あの時代、これほどに医薬に頼る人はいなかったと思うのです。是非に必要な方に対して、医薬への依存を否定するものではありませんが、医療が「投薬医療」と揶揄される時代を通じて、医薬への依存性がいたずらに高くなったことも事実です。未曾有の大震災に見舞われた日本人として、改めて、野口整体の基本理念である「自身の生命力を拠り所とする」生き方を考えてみたいと思います。

 

  野口整体と西洋医学の関係を単に対立的に捉えるのではなく、まず何を観察するのか、何に働きかけるのかという「相違」を理解する、という勉強が始まったのは、ある一人の医師との出会いがきっかけでした。序章は個の医師との対話が中心となっています。

一 西洋医学に見る機械論的生命観

医療関係者が疑問を感じ始めている現代医療

 私は上巻(『野口整体と科学 活元運動』序章 一 6)で、科学に取り組んだ「もう一つの理由」を述べました。それは、当会の活動に参加する医療関係者についてでした。

 かつての医療関係者は、西洋医療に権威とプライドを持ち、野口整体など「非科学的」と軽視する傾向にあったのですが、当会の活動に参加するようになった、医療関係の人たちの背景「西洋医療と人の心との関係」について知りたい、と思うようになったのです。

 その中でも、私が「科学・哲学・宗教」に深く興味を持つことに大きな影響を与えることになったのが、上村浩司医師(1965年生)でした。

 

上村氏は、高校生の時に入院した際、担当した医師の「スピーディで自信を持って判断している」仕事ぶりに触れ、「かっこいいな」と思ったそうです。そして、「こんなところに、『自分にあるもの』を投入していけるのではないか」と感じたことがきっかけで、医師への道を志し、地元の伝統ある大学の医学部に入学したのです。

 医師免許取得後、総合病院に麻酔科(註)医として勤務し、手術室、ICUで重症患者管理に従事しました。

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そこで、ある異端児的存在の医師に出会いました。その先輩は、周囲の医師とぶつかりながらも「薬は必要なものだけ最小限。ほんとに必要なことを最小限やれば、自然に良くなるという、非常にシンプルな考え」で術後管理を行い、「四人に一人ぐらいは三ヵ月以内に亡くなっていたものが、二十五人に一人位に減った」という実績を挙げていたそうです。

 このような「お金はかからないが手間がかかる」医療を行うその医師は、周囲との軋轢もあって、後に左遷されたのですが、上村氏はその方法を引き継いで仕事をしていたとのことです。

 彼は医学が人を救うと信じ、我武者羅に働いたのですが、いくら治療しても増える病気と患者さんを前に、ある時ふっと疑念が湧き「何かが、根本的に間違っている?!」と思うようになりました(カネをかけるほど成果が上がらない(病人が増える)、高度に細分化された現代の医療システム)。

 そして、非主流派としての孤独な戦いを十年続けた結果、現代医療に対する疑問が深まり、職場を去ることを決意しました。

*1:註 麻酔科 臓器ごとに専門化していく現代医療の流れの中で、細分化から統合へ向かった数少ない領域。現在、麻酔科学は全科の領域に渡り、麻酔にとどまらず、救急外来での心肺蘇生、重症患者の集中治療室での全身管理、ペインクリニックでの痛みの管理を行う。