野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口晴哉生誕百年―臨床心理による整体指導 序章 二4

 西洋医学の機械論的生命観 科学的方法には「自分が入っていない」

 二人の対話は、近代科学のパラダイムである、心身二元論と機械論的生命観を、実際に人間に対して応用するとはどういうことか…という話に入ります。

 

 金井 現在、医学が、特に科学的・機械的に進んでいることで、どうでしょうか、こういうと言い過ぎかも知れませんが、「人間の体」というより、「肉体」、いや「人体」を扱っている、と言うとどうなんでしょうか?

上村 いや、近い感じだろうと思います。もう最初から「人間」と見ずに、「肉の塊」として見ているので、いろんな不具合が起こってくるのだと思います。

金井 こんな話を聞きましたね。それは隣町の、この辺りでは有名な整形外科病院での話なのです。私の所に来た人が、以前、腰痛でそこに通っていた時、T大を出た若い医師の考えたことなのですが…。

 別の患者で、腰椎五番の下から出ている神経の圧迫が原因とみられる腰痛を治すのに、じーっと「骸骨(がいこつ)(骨格模型)」を見て考えちゃったんですね。それで出した結論が、頭蓋骨に穴を開けて、鎖で上(頭の方向)に引っぱると、ずうっと伸びて「腰椎五番が上がって治るのではないか」というものでした。

上村 「骨学」だけで考えているわけですね。

金井 それを聞いた整形外科部長が「君なぁ、そんなことを君の家族にやれるか!」と言ったそうです。骸骨ばかりずうっと見て考えているので、そんなアホなことを思いついちゃったんですね。

 これなど全く機械論的な考えであり、生きている人間の体はこんなことで扱えるものではありません。

 先ほどの老医師(の終わり)に伺った話なのですが、胃癌の専門医が、あろうことか胃癌になってしまった。その医師は自分が胃癌になったということは外部に対して秘密にし、全ての治療を拒否したそうです。これまで自分が行なってきた胃癌患者に対する治療法は、自身に対して行なわなかったという。

 科学的方法とは、その中に「自分が入っていない」というものなのです。

・・・・・・

 金井先生は、『野口整体と科学 活元運動』第一章 野口整体と西洋医学 二 人体解剖学(機械論)に基づく近代医学と自然治癒力の喪失 で、村上洋一郎を引用し、次のように述べています。

 

(金井)

 村上陽一郎氏は、実験的な方法の重要性と、理論構築の重大さの認識をもたらしたハーヴィの論説(近代科学の方法論では、まず仮説(理論)を立て、実験をして仮説をたしかめ、その繰り返しで知識を増やしていく)について次のように述べています(『新版 西欧近代科学』)。

(中略)

新理論の意味

天文学におけるコペルニクスケプラーのごとき華やかな雰囲気はないけれども、彼らより以上に革命的で、革新的な性格をもっていたのである。それには、単に、生理学における新説の展開という視点をはるかに超えた重大な意味があった。

…ハーヴィの業績は、文字通り、一つの時代を画すことになり、近代科学が、人間をはじめとする生命体をいかに取り扱うかについてのヒナ型を提供するとともに、その裏では、哲学的な人間観・生命観に関しても、新しい地平を切り拓いたのである。爾来(じらい)、ここでその礎石を置かれ、のちの歴史のなかで洗練され発展させられていくこうした人間観・生命観は、それを否定的に扱うにせよ肯定的に扱うにせよ、ヨーロッパの思想の枠組みとして、完全に凝結した準拠枠を形成したのであった。

  その後、近代科学のパラダイムを確立したのが、十七世紀の哲学者デカルト(1596年生 フランス)です。

 彼は次のように考えました。

「世界は時計仕掛けのようであり、部品を一つ一つ個別に研究した上で、最後に全体を大きな構図で見れば、機械が理解できるように、世界も理解できるだろう。」

 彼は、動物も一種の自動機械として説明できるだろうと考えていたのです。これが、万物を機械として捉える「機械論」というものです。

 このように生命機械論を構想していたデカルトは、「血液は生体特有の力“精気”による自発的な運動で体内を流れる」と考えたガレノスを斥けた(=生気論およびスコラ哲学を否定した)ハーヴィの「血液循環論(心臓を血流用のポンプとみなす)」に感銘を受け、自著『方法序説』で紹介しました。

 ヴェサリウスの人体解剖学やハーヴィの血液循環論が、デカルトの近代科学成立に影響を与え「機械論的生命観」が確立したのです。

 こうして、近代解剖学の祖ヴェサリウスは構造を、近代生理学の祖ハーヴィは機能を、という機械論的医学における両輪によって、西洋近代医学の準拠枠が完成しました。

 

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当時の機械論的観方によるアヒル(!?)