野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第一章 野口整体の身心の観方と「からだ言葉」二4

身体に表情を読む「パターン認識」能力― パターン認識により潜在意識を受け取る

  これまで述べてきたように、私の個人指導の中でのからだ言葉とは、体に現れている「表情」を私が形容し(形を通して、その心を言葉や例えを使って言い表す)、その上で相手に事情を尋ねるというものです(事情を聞いた後、形容する場合もある)。

 そうして観察を、相手が体験した事実と照らし合わせる(=からだ言葉を検証する)ことで、身体は、感情体験を物語っていると確信することができたのです。

 このような、様々な心が観察できる身体を、私は〔身体〕(キッコウカッコシンタイ)と表記しています。

 からだ言葉のように、身体の表情を捉える感性は、言語(理性意識)の未発達な、乳幼児の物事の捉え方「パターン認識」によるものです。

 例えば、幼稚園や小学校低学年までの子どもに、「お母さんを描いてみましょう」というと、目がつり上がっていたり、角が生えていたりという絵を描くことがあるのですが、子どもにはお母さんがそのように見えているのです。

 私は「心の動き・はたらき」が、「形」となって身体に現れているのを捉える感性=パターン認識を通じて、心(潜在意識)を観て来ました。

 現在意識では訴えられないことが「潜在意識での訴え」ということで、相手が言葉(現在意識)で訴えていることを聞きつつも、身体が表現しているそれを観察する(受け取る)ことが肝要です。

 晩年、幼児教育に尽力した井深大氏(ソニー創業者)は、パターン認識について、次のように述べています。

 

 『幼児開発(EDA)』誌(一九七九年九月号)

NO.2 幼児はパターンで吸収していく

…パターンとは、決して単なる形だけを意味しているのではなく、場合によってはその背後に存在する心とか、無形のものも含んだ総合とか、全体とかを意味するものなのです。

 

『0歳 教育の最適時期』(ごま書房 )

4章 人づくりは右脳から

“育児知識”にとらわれていては、右脳は育たない

…「ありがとう」と礼をする行動、そのときの雰囲気、お母さんの言葉と表情など、すべてをまるごとパターンで受けとめるという意味です。つまり、意味を知るより先に、言葉も行動も雰囲気もすべてをいっしょに受けとめるということです。大人になってくると、まず意味がわからなければ、なかなか新しい言葉ひとつ覚えられませんが、赤ちゃんのパターン認識の能力には偉大なものがあります。

 

  このようなパターン認識能力とは、理性が得意とする「物事を分けて、理解し捉える」ものでなく、「丸ごとを捉える」はたらきです。

 幼児に具わるこのような能力は、「言葉以前のコミュニケーション」であり、また、大人になってからの「母性としての能力」でもあります。

 子育ても野口整体の整体指導も「意識以前の心」のやりとりと言ってもいいのですが…。分かり易くは、犬や猫を飼ったことのある人なら経験済みですが、犬や猫の要求に応えたり、コミュニケーションをすることができますね。いや、犬猫だけでなく、鳥や花、樹木と対話できる人さえいるわけです。整体指導の立場は、このような「言葉以前のコミュニケーション」であり、それは体で訴えているものを聴く(潜在意識を観る)のです。

 師野口晴哉は「相手を知らないで(整体)操法をする」というのは「闇鉄砲を撃つようなものだ」と言われていました。

 観察が九十パーセントなんです。

 人は自分では自分のことがわからないものです。奥底で強く感じているが言葉にならない、まとまった感情にもならないことこそ受け取ってもらいたい、いや、これが本当に訴えたいことなのですが、訴えることができるのは表面的・二次的なことで、裡で本当に感じていることは訴えられないのです。