第一章 野口整体の身心の観方と「からだ言葉」三2
肩身が狭い
その1
音楽活動をしているFさんの個人指導例です。
久しぶりにきたFさんは、うつ伏せで観察すると、肩がきゅんと狭くなっていました。私は「Fさん、今日は肩が大変狭くなっていますよ。どんなことがありましたか」と声をかけたのです。
すると、事実、昨日大変「肩身が狭い」思いをしたとのことですが、先の年配の女性のようには体で感じてはいないのです。
彼は前日、仕事のスタッフと自宅で打ち合わせをしたかったのですが、夜遅いことで、「奥さんがいい顔をしない」という想いから、近所のレストランに出かけ打ち合わせをしたとのことです。そんなことで「スタッフに申し訳ない」という思いから、昨夜のレストランでは「一体あの家は誰のものだ (>_<)」と、引け目を感じていたとのことです。
彼は「世間(スタッフ)に対して面目が立たず、引け目を感じる」という、まさに「肩身が狭い」思いだったのです。
「肩」については、この反対に意気揚々とすると肩が大きくなるのです。軍人は階級が上がると肩章が増えますが、肩というのは「威(い)を表す」ところなのです(例・肩で風を切る)。
その2
学校法人の役員であるHさんの今回の指導は、彼に風邪っぽい症状があり「この頃は風が強いですね」という彼の一言から始まりました。
指導を始めると、彼が五種と観える時は良い意味で肩が上がっていますが、それが下がっていました。
特に右側が下がっており、そして左の胸椎八番、九番、十番あたりが張っていて、そこに触れながら「ここは、どう感じていますか」と尋ねますと、「右の肩甲骨の内側が張っています」と答えました。そのようなことを観て、指導の本番に入りました。
うつ伏せになって観てみると、肩から上が少年のように小さくなっていると感じました。
男は肩に勢いが現われるものですが、勢いが出てきていた以前に較べると、肩、首、頭が、気で観ると小さく見えて、その分上腹部が目立って(力が入って大きく観えて)いました。
そこで「どのようなことがあったのですか」と尋ねたのです。
Hさんは、自身が理事を勤める学校において、小学校教員を指導する指導主事として、公立小学校校長を歴任してきたK先生という力のある先生を招き、共に学校改革に取り組んできました。
今、校長という役職を務める人の中でもK先生のように迎合しない、芯のある人は少ないといいます。
しかし、小学校の校長が「K先生とはどうしても一緒に仕事をすることができない」と言い出し、理事長、理事会との話し合いの中でK先生に役を退いて頂かなければならなくなったのです。
Hさんは、K先生に退任のお願いをしたそうです。その時、K先生は目に涙を浮かべて、本当に無念、残念という表情だったそうです。
K先生の力が、今、学校に必要であることは承知の上で、涙を呑んで退いて頂く話をしたHさんには、無念さが残りました。
私は「理事会で風当たりが強い感じがしていた」んだな、だから外の風も強く感じていて、心の内外の風が強く吹いていた感じだなと思いました。そして、肩に表れていた様子から、右のような「肩身の狭い」思いがあったと思いました。