野口整体は現代における「道」― 整体を保ち、自然健康を保持して全生する
ここまで述べてきたように、本章で取り上げた『養生訓』の内容を通じて、明治になっての近代西洋医学が国家医学とされる以前、日本人はどのような心に生きることで「全生(生を全う)」しようとしたのか、をよく知ることができます。
野口整体における師野口晴哉の教えは、貝原益軒の『養生訓』そのものではありませんが、「身をたもつ」の言葉にある心は、「自分の健康は自分で保つ」(=整体となって(身と心を調えて)、これを保つ)ことで全生する、という野口法の理念とも言えるものです。
このような伝統を汲む野口整体は、身心一如、知行合一といった現代における「道」というべきものです。
当会・自然健康保持会の「自然」とは、本来は「じねん」というもので、じねんの意味における自然とは「そのものに本来備わっている性質(本性・仏性)や物事が本来あるとおりであるさま」を意味する、という解釈に立脚しています。
この「じねん」を保持するために、身体の訓練や精神の鍛練が肝要で、師は次のように述べています(『偶感集』全生社)。
「それ以前」
自然は美であり、快であり、それが善なのである。
真はそこにある。
しかし投げ遣りにして抛っておくことは自然ではない。
自然は整然として動いている。それがそのまま
現われるように生き、動くことが自然なのである。
そして「天心・全生」という死生観に立脚した野口整体は、生き方を教えるという「養生・宗教」なのです。
自発的・意欲的な心で生きれば、人は自ずと健康なのです。
師野口晴哉、昭和元年に始まる生涯を通じての活動、その中でも、とりわけ整体の思想は、近代科学の影響による医学の「心身二元論・機械論的生命観」に対する抵抗運動(レジスタンス)であったと、ここ数年の研究を通じて断言することができます。