野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 一1①

近藤

 完成している中巻の編集を、ブログ用に少し再編しました(内容の削除はありません)。まず、コンプレックスと言うと「劣等感」を思ってしまう人が多いので、心理学的な意味でのコンプレックスとはどのような意味かを確認しながら読み進めてください。

1 コンプレックスとは

①主体性をおびやかすもの

 ユング(1875年 スイス生)の分析心理学は、別名「コンプレックス(註)心理学」とも呼ばれます。コンプレックスの語を有名にしたユングの定義によれば、コンプレックスとは、何らかの感情によって統合されている心的内容の集まりです。

 日本に紹介された当初、コンプレックスは「感情に色付けされた心的複合体(感情複合)」と訳されましたが、これは、意識できる感情の他に、意識できない感情が潜伏しており、このはたらきにより「自我の主体性が奪われる」というものです。

 これは過去の感情体験を通じてのある事柄と、現在の情動反応が結合された状態であり、「心的複合体(心の中の解消されないわだかまりの集合体)」とも訳されます。

 人は普段の生活において、心の内に潜伏した思いや感情に支配されるものです。心に「気がかりなこと」を抱えていたら、今日の大事な約束を忘れてしまった、とかいうことはだれしも経験していますね(個人指導で、「家の玄関に着替えを置いたまま出てきてしまった」と言う人の身体を観ると、必ず強い不快情動に支配されており、私が「これなら忘れる」と、観察できる)。

 また何かに心が引っ掛かっていて、目の前の相手に「関係がない感情」を伴う、言うつもりのないことを言ったり、するつもりでないことをしてしまったりする(思わず八つ当たりしたり)という経験もすることでしょう。

 さらに相手に対し、つい「隠していた本音が出てしまった」ということもあります。

河合隼雄氏はコンプレックスを次のように説明しています(『コンプレックス』第一章)。 

1 主体性をおびやかすもの

…ある女性が旧師と久しぶりに会うことになって、約束の時間に待っていたが先生はなかなか現われない。随分おくれて、「やあ、今日は」と先生が現われたとき、彼女は「長らく御無沙汰しております」と挨拶しようとしたが、「長らくお待たせ致しました!」と言ってしまったのである。

…この場合の「言いまちがい」の理由は本人にも明らかである。彼女は約束の時間を守ったのに、待たされたので少し腹が立っていた。しかし、一方では旧師の多忙な生活を知っているので、これ位のことはあっても当然という気持もあった。

そこへ、先生が現われて、待たせたことに対する挨拶もせずに、「今日は」と言ったとき、彼女の意志に反して、「長らくお待たせしました」という言葉が出てきたのである。それは教師が言うべきことと彼女が期待していたことだった。

…彼女の心のなかに一種の分離が生じ、一方では待たされたことを心外に思い、一方ではそれを受けいれようとした。そして、後者が一応主体性をもって行動しようとしたとき、前者が反逆して、思いがけないことを言わしめたのである。

   人が強い感情を伴う何らかを体験した際に、その情動(身体への影響)が処理され流れてゆけば良いのですが、流れず残ったままだと、心の底には感情エネルギーが鬱滞し、これがやがて意識活動に ― 精神的に、また身体的に ― 影響を与えるのです。

 これは、理性的な意志(意識)の力よりは、感情の力の方が強いからです(「身体的に」の例とは、コンプレックスによって転んだり、体をぶつけたりすること)。

 このような意識下の思いや感情、それが無意識化された「コンプレックス」というものです。