野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

(補)偏り疲労とは

体の歪みとストレス

  個人指導の観察で焦点となる「偏り疲労」とは、簡単に言うと、体の歪みや硬張りのことです。体の使い方が偏った結果、体のある部分に力が入ってしまったまま、脱力できなくなっている(または力が抜けている)状態を言います。

 これは潜在した疲れというべきもので、一晩寝ても恢復せず、自分でその焦点を自覚することは難しく、異変を感じても、どこが硬張ってそうなっているのか自覚できないものです。

 こういう時、自分ではあまり疲れたと感じていないのですが、起きている時に頭が働かなくなったり、明瞭な意識にならなくなります。次に長時間眠っても全身が弛まず緊張が残って眠っても疲れが抜けない、疲れているのに眠れないという状態になり、意欲がなくなり焦りや不安が強くなるなど、心理的な変化が起きてきます。

 潜在的疲労は、体全体の疲れではないのですが、その部分疲労による疲労感が全体の感じを支配している状態で、はっきりした病症が出る前は、偏り疲労が限界まで来ていることが多いのです。

偏り疲労が起きている時、その部分は体全体の運動から外れてしまい、動きを失って、感覚も反応も鈍くなっています。

 この偏り疲労が起きる最初のきっかけ(ショック)の多くが、情動によるもので、「偏り疲労」の多くはストレスによって起こります。偏りの実体は「感情エネルギー」であり、「歪み(偏り疲労)」の状態が続いている限り、その感情も熾火のように潜在意識内で続いています。

 ストレスというのはもともと「歪み」を意味する物理学の言葉で、それが生理学に転用されて、生体における、何らかの刺激によって生じた歪みの状態を表す言葉になりました。

 

 起きている(覚醒している)状態にある体には、刺激に対して反応する、動作をするといった活動のために緊張を保つ「姿勢反応系」という仕組みがあります。

 これは生理心理学の用語ですが、神経・腺・筋肉、すべての器官が統合して働くための背景となるもので、この緊張と反応の仕方には個性があって、その人らしさを特徴づけています。

 身心に弾力のある、健康な状態では姿勢反応系によって反応や行動を最適化することができますが、ストレス状態が続くとこの姿勢反応系が固定化し、反応や動きの幅が狭くなり、それが実際にその人の姿勢に顕れてくるのです。

 この姿勢の崩れの焦点になっているところが偏り疲労部位というものです。恒常性維持機能という全体の秩序を保つ働きがしっかり機能して、ストレス負荷に耐えうる状態と、そうでない状態とがあり、その人の姿勢はその生命の状態を表現しているのです。

 野口整体では、この「偏り疲労」という部分の異常が、運動系(骨格筋)のみならず、内臓、脳、感覚器官、神経系など身心全体に影響し、生命活動全体を方向づけると観ています。

 体の一部の偏りがその人全体に影響を及ぼし、運動系が偏り疲労によって動きの悪い状態にあると、生きること全体が停滞してしまうのです。

 偏り疲労は人によって疲れる場所が違い、感情が起こった時に緊張する場所も、取る態勢も異なります。刺激に対する反応として体のどこが緊張するか、どちらの足から立つか、という基本的な動きにも個性があり、得意・不得意もあって、鈍いところと過敏なところが同居しているものです。

 このような動きの良し悪しや反応、感じ方が鈍い・敏感という個人的な違いを、偏りの癖がつくり出しているのです。

文責 近藤佐和子