野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 1

三 ユングの心的エネルギー論と野口整体の気による身心観 

 偏り疲労(体の歪み・硬張り)は、情動エネルギーによるものだとここまで述べてきました。しかし、実際に指導の中で、本人の中でもはっきりしない感情について踏み込むというのはそれほど簡単ではなく、本当の心の通い合いがあること、そして受ける側の身体感覚が一定の水準にあること、などが必要です。

 しかしそれでも、人間の内なる自然を取り戻し、保っていく上で、情動的な滞り(コンプレックス)に向き合っていくことは必要不可欠なことです。「病気は医者が治すもの」というこれまでの考え方は、現実に通用しない時でもあるのです。

 パンデミックが起きたのは自分の責任ではなくとも、政府の対応がいかに悪くとも、不満・怒り・不安などの不快情動や、悪い空想に四六時中頭の中を占領されている状態は、免疫力を低下させ、感染した時に経過を悪くする要因にもなりえます。こうしたことを踏まえ、今、ここにある問題とつなげて読んでみてください。 

コンプレックスの表出― 刺激に呼応して潜伏感情が噴出する

  コンプレックスとは、その内容が強い感情やこだわりというもので「普段は意識下に抑圧されている」ものを意味します。一に述べた体の機能上の問題(ヒステリー)だけでなく、何かの不安や恐怖の感情がいつもつきまとって離れないという精神上の問題ともなります。

 意識でいくら努力してもどうにもならない、このような感情を引き起こす何かの力が、無意識の中でいつもはたらいているのがコンプレックスです。

 このような心の底の方にある感情(潜伏感情)が、「刺激する何か」が現れた時、それに呼応して噴出する(それと連動して起こる)情動が「コンプレックスの表出」という現象です。

 例えば「父親コンプレックス」というものがあります。これは父親への敵対心と、「父親にもっと愛されたい」という気持ちとが複雑に絡み合って生じる心的反応です。人によっては年上の男性に対して妙に反抗的(または服従的)になったりするもので、敵対心という感情は意識されているが、愛されたいという感情は潜伏しているというものです。

 このような感情のエネルギーが、何かの拍子に(刺戟で)意識に現れようとする時、カッとしたり、訳が分からなくなったりということが起こり、他者には何かに固執している傾向として見えたり、心の奥に激情が見えたりするのです。

 ここで先に挙げた「潜伏感情」は、師野口晴哉の潜動意識(第三章一 3で紹介)と同じと考えて良いものです。これは抑圧された感情エネルギーによって自我が動かされた、ということで、これが、主体性を脅かすコンプレックスなのです。

 これまで述べてきたように、感情は意識を超える力を持ち、この(心の不安定さをもたらす)「感情のかたまり」を解消し、溶かして(流れるようにして)いくのが瞑想法であり、東洋宗教の修行法は、これを基礎としていました。

 野口整体では、活元運動が「固まり」を解消させるはたらき=動的瞑想法であり、正坐が静的瞑想法(この究極は脊髄行気法)です(活元運動は「密教的易行道」と呼ぶ流派もある)。

 そして、指導者がそれを手伝うのが心理療法で、心の中に生じた意識と無意識の葛藤や分裂を元へ戻し、本来の状態(自然・じねん)へと回復させることを目的としています。

 整体操法愉気法)とは、身体上で、これを積極的に図る技法です。そして活元運動以下の内容を含むのが、野口整体の整体指導法です。