野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第五章 野口整体と心身医学の共通点 一 3

今のように感染症パンデミックが問題になると、病原となるウイルスをターゲットにして、ワクチンや治療薬開発に全力を挙げる研究が脚光を浴びるようになります。

 フランスのパスツール研究所、ドイツのロベルト・コッホ研究所などは、「病原細菌学説」の基礎を築いた研究者の名を冠した名門ですが、新型コロナウイルスでも研究の中心となっています。この二人によって、西洋医学は自然科学としての基礎を確立しました。

 19世紀~20世紀初頭、人と物の交流が世界的になったことで伝染病の世界的流行が起こるようになりました。また、アジア・アフリカ地域開拓のためにも、近代科学による感染症との闘いが始まったのです。

それはグローバル経済と呼ばれる現代でも本質的には変わらないことが、新型コロナウイルスパンデミック(世界的流行)からもよく分かると思います。

 20世紀初頭、物質的になりすぎて、人間が対象であることが分からなくなった医学の反省に立って成立したのが心身医学です。野口晴哉先生も講義の中で「精神身体医学」という以前の呼び名で時折言及しています。

 

深層心理学が心の問題を医学に持ち込んだ

― 二元論的見方への反省から生まれた心身医学 

 19世紀の細胞病理学(ウィルヒョー)や細菌学(パスツールやコッホなど)の発達により、自然科学としての基盤を得た西洋近代医学では、病気とは、身体を構成している臓器やその生理的な機能や器質の異常と定義され、心の状態とは関係のないものとされてきました。

 このように心の問題は度外視し(考慮の範囲外と見なし)て、臓器やその機能だけを研究するのが、近代医学の正統的な考え方(解剖学・生理学(正常な状態の研究)・病理学(異常な状態の研究))です。ここには、デカルトが確立した精神と身体を分離する「心身二元論」の考え方が前提されています。

 このような(機械論的な)近代医学の考え方に従った現代の多くの人々は、「病気とは臓器や生理的機能の異常であり、治療とは、薬物や手術によってその異常な状態を解消することである」、と考える(思う)ようになりました(こうして、医療の世界で精神面を配慮することが忘れられた)。

 20世紀に入ると、このような近代医学の考え方に対して、様々な方面から疑問が提出されるようになりました。その主なものの第一は「心身医学(精神身体医学)」でした。

欧米では、精神科医フロイト(1856年生)やアドラー(1870年生)、ユング(1875 年生)に始まる深層心理学の発達によって心の問題が医学に持ち込まれ、また脳生理学(註)の進歩により、深層心理学と生理学を結びつけた心身医学の考え方が発達していたのです。

(註)脳生理学 生理学は生命現象を機能の側面から研究する生物学の一分野で、脳の機能に特化したのが脳生理学。 

 これ(心身医学の考え方)は心身の一元性を志向するもので、その理論的根拠になったのは、フロイトの「精神分析1886年創始)」、セリエ(1907年)の「ストレス学説(1936年)」、そして、パブロフ(1849年)の「条件反射理論(1902年)」、及びその弟子ブイコフの「皮質内臓病理学説」でした(ストレス学説については本章二 4で紹介)。

 心身医学は主として心身症を対象とし、種々の身体的障害は精神的ストレスに因るとするものです(現代の心身医学では、認知されない感情は身体症状として現れる、という生体のしくみが解明されている)。