第五章 野口整体と心身医学の共通点一6①
体の二重構造から心の二重構造(意識・無意識)を理解する道が開かれた
―意識と無意識をつなぐ身体感覚と情動
6は、身体感覚と情動について生理学的に論じた内容で、こみいっているため、補足を入れながら二回に分けて紹介します。
①意識と無意識を生理学的に捉えると
4で述べたような生理学的基礎研究を経て、20世紀半ばから神経生理学(註)が急速に進歩したことで、深層心理学の「意識 ― 無意識」という構造を、「大脳皮質(外界感覚・体性神経)系― 皮質下中枢(自律神経)系」というように、生理学的な知見に即して研究する道(生理心理学)が開けてきました。
(註)神経生理学 中枢および末梢神経の機能を対象とする生理学の一分野。脳の機能、記憶、学習、睡眠、人間の精神活動などを研究対象とする脳生理学まで含まれる。
この二つの系(大脳皮質系・皮質下中枢系)を簡単にまとめてみます。
まず、身体の構造(と機能)を大きく二つに分けると、一つは四肢(手足)という運動の器官、もう一つは生命を維持するための基礎的活動(呼吸・血液循環・消化・排泄など)を営む内臓の器官です。
このように、身体の働きは意志の自由になる部分と、意志から独立して自律的に働く部分とに分かれており、この二つの働きは異なった神経系統に支配されているのです。
(註)随意筋・不随意筋
随意筋(動物的機能)
骨格筋と、皮下に付着して皮膚を動かす皮筋、関節包に付着している関節筋、肛門括約筋、舌・咽頭・喉頭の筋などが含まれ、主に横紋筋に属する筋肉。脳脊髄神経の支配を受け、一般に不随意筋(平滑筋)よりも収縮が速やかで、強力である。
不随意筋(植物的機能)
内臓の壁をつくる筋などが不随意筋に属し、多くは平滑筋。自律神経の支配を受け、一般に随意筋に比べて運動速度は遅い。また、ホルモンや神経の調節によって動き、緊張状態の変化に伴って働く。
意志の自由になる四肢を動かす神経は運動神経(体性神経のなかの遠心性回路(註))と言い、大脳皮質の運動野に中枢があり、脊髄を通って四肢に分布しています。これは動物性神経と呼ばれます。
外界からの刺激(視・聴・嗅・味・触覚の感覚器官で受け取る)は、大脳皮質の感覚野に伝わることで感覚として意識されるようになり、こうして知覚された外界感覚に反応して働くのが遠心性回路です。
もうひとつの意志から独立して活動する、内臓を中心として支配する神経は自律神経(自律系の器官には呼吸・消化・循環・内分泌機能・代謝・皮膚の機能など不随意な働き全体が含まれる)と言い、大脳皮質の下にある大脳辺縁系と脳幹(間脳・中脳・橋・延髄)に中枢があり、脊髄を通って内臓に分布しています。これは植物性神経と呼ばれます。
(註)遠心性・求心性 生理学や解剖学では脳を身体(人間)の
中心と考えている。遠心性とは脳から体へ発する方向を言い、求心性とは体から脳へと発する方向を言う。
脳を中心とする西洋医学に対し、野口整体では腹(肚)を重要視する。体にはたらきかける愉気・操法とは求心的心理療法である(体を通して脳を活性化する。丹田に力が入ると脳が良くはたらく)。
運動系は、神経系のうち、全身の運動に関わる部分をいう。錐体路と錐体外路の二つに大きく分けられる。
錐体路系は延髄の錐体を通り随意運動を司るとされる。中枢は大脳皮質のうち、中心前域と頭頂葉領域にある。
錐体外路系は脳と脊髄(中枢神経系)の内部で、全身の筋肉の運動の指令を伝える経路(伝導路)のうち、「錐体路以外のもの」をまとめて呼ぶ言い方。中枢は様々ではっきりしていない。