第五章 野口整体と心身医学の共通点一6②
近年、画像診断の技術が進み、これまでできなかった生きた人間の脳と情動の神経生理学的な研究が進んでおり、先に紹介したアントニオ・ダマシオの研究は、特に注目されています。
そして、ストレス性疾患の原因であり、人間の進化の過程で取り残された余分なものであるかのような扱いを受けてきた情動が、いかに人間の意識の進化に関わっているかが明らかになってきました。
今回は前回の続きです。意識と無意識を、脳と体の関係から考えてみましょう。
②意識と無意識をつなぐ身体感覚と情動
この表のように、脳とそのはたらきは、大脳皮質と皮質下中枢(大脳辺縁系・脳幹)の二つに大きく分けることができます。
★心身(意識と無意識)の統合性―情動(快・不快)・身体感覚
※湯浅氏はことに皮膚感覚に注目している…気とのつながり
このような大脳皮質(体性神経)系・皮質下中枢(自律神経)系という体の二重構造から、意識・無意識という心の二重構造を理解することができます(脳生理学を通じて深層心理学を理解する)。
この二つの系(意識と無意識)の間には、体性内部感覚(皮膚感覚・深部感覚(註)・平衡感覚・内臓感覚(内臓→脳へ))と、四肢の運動感覚(体性神経の中の求心性回路(筋肉・腱→脳へ))があり、この二つを合わせて全身内部感覚(=身体感覚)と言い、身体の情報を脳へと伝えています。そして、情動のエネルギーはこれら全身の働きに浸透しているのです。
(補)内界を知覚する身体感覚・外界を知覚する外受容感覚
感覚には、五感、視・聴・味・触・臭覚があります。これは自分の環境、外側の情報を得るための機能で、外受容感覚(外界感覚)と言います。
身体感覚は、自分の内側の情報を捉えるための機能です。身体感覚には内受容感覚と自己受容感覚の二つがあり、合わせて身体感覚と呼んでいます。
内受容感覚(深部感覚)
内臓の痛みや体温、心拍、呼吸、空腹・満腹感、のどの渇き、便意、性欲、など、身体内部の状態に関する感覚。また体の各部分の位置、運動の状態、体に加わる抵抗、重量を感知する感覚。だるさや疲れなど全身的な感覚を含む。
自己受容感覚(筋感覚・固有感覚)
筋・腱・関節などから発する、筋肉の張弛を伝え運動感覚と平衡感覚からなり、自己の姿勢や動きに関する感覚。内臓の状態や異変に伴う感覚や痛みは、筋の感覚を通して感じることも多い(特に腹部)。
湯浅泰雄氏は意識(明るい意識)と無意識(暗い意識)の区別を心の二重構造と定義し、次のようにこの二つを分けて定義しています(『身体論』講談社)。
大脳皮質に中枢をおく感覚—運動感覚(体性系内部知覚)及び思考作用から成る「意識」の主要部分を心身関係の表層的構造とよぶ。この表層構造は、感覚—運動感覚回路に伴う「明るい意識」を通じて自己と世界を関係づけ、人間の存在様式の表層を形成している。
この表層的構造の根底に、心身関係の基底的構造とよぶ部分を設定する。
それは自律神経系に支配される内臓諸器官と、機能的にこれと結びついている情動および内臓感覚の関連の構造をいう。心理面からみれば、この基底的構造は、感情という形で、意識(つまり皮質)のレベルにその一部があらわれているが、その大部分のはたらきは明確な判別が不可能な無意識領域に沈んでいる。それは「明るい意識」の底にかくれた「暗い意識」を形成している。