野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第五章 野口整体と心身医学の共通点一8②

人間の「精神的成熟」を目的とする東洋の修行法

― 呼吸法の訓練をする瞑想法は自律系機能との対話

(金井)

 哲学者である湯浅氏は、現代の神経生理学の立場から、「人格の向上とは、より深い無意識の感情のはたらき・愛や慈悲というものが意識に表れてくること」、と表現しています。

 私が「身体性」と言葉を使うのは、右の湯浅氏の文章内容を目的とするものです。これを育てる教育が失われた現代の日本で、人間の心の問題が大変多くなっているのは、近代スポーツや科学という西洋文明の影響によっていることが、右の文章からもうなずけます。

「皮質下中枢(内臓)」系という、意志が及ばない自律的機能の中で、唯一、呼吸は意志でコントロールすることができます。心臓や腎臓、胃腸やその他の臓器を、直接意志のコントロール下に置くことはできませんが、呼吸をコントロールすることによって、呼吸器から循環器(血管系・リンパ系)へ、そして自律系機能全体に働きかけていくことができます。

 東洋の身体行(気功法など)では、長く吐いてゆっくり吸う、体の動きもゆったりで、表層筋には力が入らないようにします。それで深部、自律系に届いていくのです。このように、瞑想法というのは自律系機能との対話なのです。

 何らかで「カチン」と来た後は、活元運動が出にくい ― 錐体外路系機能が働かない ― ものですが、怒りの感情(情動)が起こると、交感神経優位で副交感神経劣位(註)になるため、身心が休息の状態に入れず自然治癒力が働きにくいと考えられます。

 例えば、興奮している時は痛みを感じず、心が落ち着いてくると痛んできます。この時、副交感神経(註)が働き出しているのです。副交感神経優位の状態を作ることが活元運動に臨む、「意識を閉じる」という心の姿勢です。 

(補足資料)自律神経のはたらき

自律神経…交感神経と副交感神経

情動の変化は体性神経(皮膚+骨格筋+関節を支配)と自律神経の活動に大きな変化を与える。

交感神経

自律神経の一つである交感神経は、相反する働きをする副交感神経とバランスをとりながら、各臓器や血管、分泌腺の働きを調整している。

交感神経は起床時から活発化して、心拍数や血圧を上げる一方、消化器官の働きを抑制するなど、体が活動しやすい状態になるように働く。緊張やストレスなどが長引くと、交感神経が優位になりすぎて体にさまざまな不調があらわれる。

怒りや恐怖は交感神経系を興奮させ、消化器系活動の抑制・心拍数の増加・手掌の発汗・血糖値を上昇させる。これは「緊急反応」と呼ばれるもので、アドレナリンやノルアドレナリンの関与が証明されている。そのため交感神経は「闘争と逃走の神経」などとも呼ばれる。

副交感神経

自律神経のもう一つである副交感神経は、交感神経とは逆に、睡眠中や食事中、入浴中などリラックスしているときに活発になり、エネルギーを蓄え、体を修復するように働く。

主な働きは、心拍数や呼吸数を減らす、血管を拡張させる、血圧を下げる、胃腸の働き を活発にして消化・吸収と排泄をうながすなど、必要な生命を維持するために大切な作業を司っているのが副交感神経。