野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第五章 野口整体と心身医学の共通点一10②

 体の外側(体表)から観察することの意味

 フロイトは、「自我」という心のはたらきは皮膚に基盤を持っていると考えていました。生まれたばかりの赤ん坊は、最初は母親に抱かれた時の一体感を皮膚感覚を通して感じます。その後、自分と母親が分離した存在であることを、皮膚感覚を通して理解します。こうして皮膚感覚が自我の基盤になっていくと言うのです。

たしかに、第四章にある自我についての心理学的定義は、皮膚の機能と共通しています。

 この引用文の中に、皮膚は「自我(意識)の窓」(自我意識の状態をのぞくことができる窓の意)という言葉がありますが、これはユングの言葉です。

 金井先生は、「皮膚に触れることは脳に触れること」と言っていました。 

②「身体性」は体表・体壁にある

 体表・体壁と呼ばれるものの「状態・はたらき」を身体感覚で捉える(=感性で理解する)のが、野口整体の「身体性」というものです。ですから、身体感覚が「身体性」を高めて行くのに必須のものというわけです。

 科学である西洋医学は死体解剖によって内臓を研究しました(西洋医学が体表に関心を示さなかったことでも「科学は身体性から離れる」ということが言える)。

 しかし、この「身体性」が、実は内臓の働きともつながっているのです。それで、「身体性」が整うこと(整体)が、また大切というのが野口整体の世界です。

 身体の状態を鋭敏な感覚で把握できていることによって、ひいては内臓の状態も良い状態に保つことができるのです。

 湯浅泰雄氏は内臓系と体壁系について、次のように述べています(『気とは何か』Ⅱ 人体内部の「気」のシステム 2 東洋医学の身体観と人間観)。

体表医学と開放系の人間観

 近代医学の立場からいうと、東洋医学の身体観の大きな欠点は、身体内部のメカニズムについての解剖学的分析を欠いているところにある。

…中国の古代医学には解剖学的な考え方もあったのだが、そういう視点は次第に後退してゆき、それに代って一種の体表医学ともいうべき視点、つまり皮膚を中心にして身体のシステムをとらえる見方に移って行ったのである。

 人体内部の具体的な分析を欠くことはたしかに重大な欠点であるが、体表医学的な身体のとらえ方には、内臓中心のとらえ方とはちがった重要な視点が見出される。それは方法論的ともいうべき基本的な視点のちがいである。

…今日の臨床医学のシステムでは、皮膚は、皮膚科という分科であつかわれる一分野にすぎないが、身体のはたらきを有機的に統合しているシステム――神経系、血管系、内分泌系等――に注目すると、皮膚は、これらの統合システムの中でも最大のものであって、それらをさらに全体としてまとめている最高の統合システムであるといえる。

 言いかえれば、皮膚を重視する体表医学の考え方は、身体の機能を統合的でホリスティックな視点からとらえるという基本的態度のあらわれともいえるのである。

 神経系や内分泌系のような統合システムは、先に言ったように、心と身体の相関関係に大きな役割を果たしている。後に言うが、皮膚は、生理心理学では「自我(意識)の窓」ともよばれるように、意識―無意識の作用が最もよく表現される場所である。

 言いかえると、皮膚は無意識の心理学と深く関係した、人体各部分の統合システムなのである。