第五章 野口整体と心身医学の共通点 二7
身体感覚と恒常性維持機能
野口整体では、整体であるため、身体感覚を高めることを専らとするのです。感情に対する自覚と身体感覚の敏感さは一つのことで、これは経験則からの確信です。
師野口晴哉が説いたことを一口で表すと「整体を保って全生する」ことです。
「整体」とは人間の自然(じねん)な状態であり、整体を保つことで自然健康を保持し、生命を全うできるからです。
ここには「敏感である」ことが必須とされます。
鈍くなっている体は「凝り・痛み・不快感」といったものを、良く感じられないのです。肩が凝りすぎていると凝りを感じない、ということがあります。凝りを感ずることや、痛みや不快感も、体が再生する働きとして大切な身体感覚であり、このような不快症状を経過するからこそ、健やかな体に戻ることができるのです。
野口整体は、時々下痢をしたり、風邪を経過したりすることで健康を保つという思想・行法で、師は健康保持のための病症がない状態を「無病病」と名付けました。
師は異常感と回復の要求について、次のように述べています(『月刊全生』2012年4月号 昭和49年整体操法初等講座)。
見えないはたらき
人間は自動車と違って生き物だから自然に治る。治るのは治ろうとする要求があれば治っていく。何によって治ろうとする要求が起こるかというと、異常を異常と感ずることです。体に異常があると、痛かったり、身体が重かったり、眠れなかったりと都合が悪いのです。だから治ろうとする。つまり、異常感というものがあって、そして回復の要求が起こる。
師は、癌・脳卒中・肝硬変などの(重い)病気は、体の鈍りが原因となって起こるものであり、このような体は「風邪を引くべき時に引かない」と、よく話していました。
これは、本章一 に挙げた全身内部感覚(身体感覚)が働かないことで、恒常性を維持するための必要な病症が起きないことを、師は捉えていたからです。
右引用文のように、師が「異常感と回復の要求」について説いたのは、恒常性(ホメオスタシス)を理解するためのものであり、生体に具わっているこの仕組みを、円滑に維持するための思想と行法が野口整体の世界なのです。
師の恒常性維持(整体を保つ)の考え方には、このような「病症経過」が含まれているのです。