野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第五章 野口整体と心身医学の共通点 三2

 今回の焦点となる味覚は、生理学的に言うと「外界感覚(外受容感覚)」という外界を知覚する感覚(五感)のひとつです。食物の異化作用・同化作用と密接に関わり、体調によって鈍りが起きやすいことは、経験的に良く知られているかと思います。

 この味覚を正常に保つというのは、整体を保つ上での重要なポイントであり、情動の停滞と深く関連しているといます。

 では内容に入っていきましょう。 

2 感情の閊えと「感覚」の鈍り、そして身体感覚

―「整体」とは要求に沿うことができる身心

  1で表した程でなくとも、感情の閊えで食べ過ぎが続いている人に「味覚はどうでしたか?」と聞くと、多くの場合「そういえばおいしく感じてはいませんでした」と答えます。

 嫌なこと不快なことがあり、それが強いショックとなっているが、そうだとはしかと感じていない(感情に蓋をしている)状態では、おいしく感じないのに食べてしまい、「食べ過ぎや飲み過ぎ」を続けてしまうということがあります。

 感情の閊えが起こった時には、初めはおいしく感じるものです。この段階は、食べることが、ある程度ストレス解消となります。

 しかし後には、充分な味覚がない(おいしく感じない)まま、多くを食べる(食べ過ぎる)習慣が続くもので、これが体に負担をかけてしまうのです。

 つまり、自律的機能(この場合、栄養摂取)の正常範囲を越えて食欲が亢進しているわけですが、味覚が正常な時は、適量で満足感が得られるものです。

 このように、「感覚」の鈍りが起きていることには気づいていないものですが、こういった感覚という面も科学的診断では考慮されることはありません。

 情動による体の偏りが続き、感覚が鈍って(狂って)くると、要求を取り違えるようになってしまうのです(偏り疲労→不整体=異常食欲。美味しく感じなくなったら口にしないのがよい)。

 身体には「自然治癒力」というはたらきが具わっているのですが、偏りが続いている(弛むことができない=身心の弾力が戻らない)ことで、このはたらきが充分に発動しなくなるのです。

 身体感覚は、意識(大脳皮質系)と無意識(自律神経系)をつなぐものであり、感覚が鈍ることで、意識と無意識のつながりが悪くなるためです。

 感情の閊えが感覚を鈍らせ(狂わせ)るのです。

 このように、「整体を保つ」上では、感覚に問うという姿勢が大切なのであり、「整体」とは、適切に要求に順うことができる状態なのです。

(註)情動と身体感覚の鈍り

人の神経系統は、大脳皮質・体性神経系(意識・動物系)と、皮質下中枢・自律神経系(無意識・植物系)の二重構造にあり、これをつなぐ身体感覚(全身内部感覚)の鈍りが、五感にも及ぶという問題と考えられる。