野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第七章 禅文化「道」としての野口整体― 瞑想法(セルフコントロール)と心理療法 一 3

「人間の体は、心のこだわり、体の停滞を除くと自ずから自然に丈夫になっていくのです。」(月刊全生)

 これは、1970年潜在意識教育法講座での野口晴哉師の言葉で、潜在意識教育の目標は、人間の心と体を解放して自発的にはたらくようにすること、と講義の中で述べています。

 1970年というと、金井先生が入門して三年目の頃です。先日、この資料を読み返していると、じっと耳を傾けている、若かった先生の姿が目に浮かぶような気がしました。

 今回は、この時の野口先生の講義とつながる内容です。 

 野口整体の「自然健康保持」とは「自然(じねん)の心を保つ」こと

  師野口晴哉が「自然」という時、それは「本然(註)」の意で、また「自然とは増減のないもの」とも語っていました。これが「自然」の本来の意である「じねん」という意味なのです。

(明治時代、英語の「ネイチャー(山川草木)に「自然」の語が当てられたが、訳語として不適当であり、ネイチャーは「森羅万象」が適するとの意見がある)

(註)本然(ほんねん・ほんぜん)本来そうであること。人工を加えないで自然のままであること。

不増不減 すべての事物は空なるものであるから、増えることも減ることもないということ。 

 野口整体での「自然健康保持」とは、「じねんの心を保つことで健康を保持すること」です。

「整体」とは良い空想ができる身体なのですが、陰性感情に支配されると、空想が消極的にはたらくようになるのです。陰性感情が起きても、それはそれで理由のあることですが、これが離れず心が縛られていては、自身の自然(じねん)から離れたままで、本来の自分を活かして生きることはできません。

 自然とは本来積極的なもので「自然を保つ」ことが、自ずと成長・発展する方向に向かうものです(私は第四章で、これを、ユング心理学の「コンプレックス」を援用し表した)。

 現代人に多く見られる、自分の生き方が分からない、自分が思うように生きられない、心に不自由に生きていることは、実は「感情力」というものを使うことができないからなのです。

(感情力とは、感情と知性が一体となった力。 第六章一 2参照)

「生き方」とは、体と心の使い方なのです。体と心をどのように用いて生きるかという問題です。

 天風哲学アカデミーフェロー小野敏郎氏は、「自然を保つ」ことを、天風哲学の立場から「あるがままの姿」と表現し、次のように述べています(『大法輪』)。

 ◇心と身体の訓練

「あるがままの姿」とは、本来は単純なことなのですが、実際に実行するとなると、なかなか難しいところがあります。

人間には思考能力があり、これが他の生物とは違うところです。人間だけに与えられた思いを描く力を正しく使うことにより、人間本来の使命である、世のため人のために役立つことができ、文明も発達し、文化や芸術を楽しむこともでき、人間として生きることの素晴らしさを満喫することができるのです。

しかし、一方、人間以外の生物は、その本能のままに生きることがすなわち自然法則に順応した生き方に成り得ますが、人間は思考能力が発達したために、生物本来の純粋な本能すなわち潜勢力を発揮することが却って難しくなりました。

人間がいざ自分の真価を発揮しようとする瞬間、いかに余計なことを考えず無心になることが大事か、そしていかに無心になることが難しいかは、多かれ少なかれ誰もが経験していることでしょう。

思考能力こそが余計な雑念や妄念を作り出す因になり、また、考えれば考えるほど悩みや苦しみが深くなったり、人を疑ったり欺いたりして人生を台無しにしてしまう原因になることさえあるのです。

従って、心と身体に「あるがまま」の状態を発現させるには、やはり訓練が必要なのです。

   人間は思考力があるが故、色々と頭を働かせてしまうのですが、「雑念や妄念を作り出す因」となる思考とは、陰性感情に支配されたもので、それで「悩みや苦しみが深く」なるのです(これが、第四章でのコンプレックス)。

そういったことから解放された心「無心」を、天風哲学では積極心(せきぎょくしん)、野口整体では自然(じねん)とも言っているのです。この時、〔身体〕は全き状態で、なんら付け加える必要が無いものです。

 師は次のように述べています(『月刊全生』増刊号)。 

晴風

自然は美であり、快であり、それが善なのである。真はそこにある。

しかし投げ遣りにして抛っておくことは自然ではない。

自然は整然として動いている。それがそのまま現われるように生き、動くことが自然なのである。

 

鍛錬しぬいてのみ自然を会することができる。