野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第七章 禅文化「道」としての野口整体― 瞑想法(セルフコントロール)と心理療法 三5①

活元運動は「動く禅」―Yさん(40代女性)の指導例

気づきが身心の乱れを調える

 本の中では、三に40代女性の体験談が入っていますが、ブログでは原文掲載は控え、私が再編した内容を紹介したいと思います。

Yさんはひどい腰痛、鬱症状などを体験した後、定期的に個人指導を受けるようになり、活元指導の会にも参加するようになりました。

Yさんは、自分はダメだ、自分は価値がない、など自己否定的になりがちで、嫌われたくないあまりに感情を抑圧することが習い性になっていました。

しかし指導を通じて、行動できる自分、自然な自分というものを知り、健康とともに生き方そのものが変化していったのです。

そして、もともと好きだった英語を役立てる部署に配属され、英語のさらなるブラッシュアップをはかろうとしていました。

これはYさんが指導を受け始めて二年程経た後の経験です。

①情動的ショックが体に入り込み、体調を崩す

 ある時の個人指導でのことです。その日、Yさんは「体がねじれて正坐ができない、尿の出が悪い」ということを感じていました。

 指導での観察を通じ、金井先生から「何か驚いたことはありましたか?」と聞かれました。Yさんがすぐに思いついたのは同僚の仕事態度に不快な感情を抱いたことでした。

 しかし、先生の指導で活元運動が出始めると、全く違う想念が浮かび上がってきました。それは「自分が否定された、拒絶された」と思い、強く精神的に打撃をうけたことでした。

 後には、自分で勝手にそう思い込んでしまった、と分かった出来事でしたが、先生の誘導で、その時の感情(情動)が身体の中から浮かび上がってきた途端、活元運動がより大きくなりました。

 動きながら、先生が私の背骨を見て感じられた『驚き』はこの出来事だなと確信し、「先生、先ほど申し上げたことは違います。実は…」と先生にその出来事を話しました。

 個人指導の二週間前のことです。Yさんは自宅で行うインターネットの英会話教室(生徒4名対先生1名)に申し込みました。

 生まれて初めてのオンライン授業で、勝手が全くわからず、緊張して恐る恐る一番下のレベル(入門者用)からの参加でした。

 その日は二回目の授業で、授業中、外国人の先生から「あなた、私の声が聞こえている?」と突然質問されました。

 てっきりYさんは自分が何かを聞き逃したか、間違えたのかと思い、「聞こえていますよ」と応えたのですが、そのすぐ後に「あなたは、教室から出てください」と言われてしまいました。

 そう言われても、きっと自分の聞き間違いだと思い、そのままでいたところ、他の生徒さんには話しかけるのに、私には一切話しかけてこず、今度はチャットで「教室を出てください」と言われたのです。

『えっ!なんで?私、何か悪いことしたかな…』と思ったのですが、そこで自分が何か言ったりすると、他の方の授業の妨げになると思い、何も言えないままログアウトしました。

 とても短い時間の出来事でしたが、自分の想像以上にショックを受け、頭も体も固まってしまい、その後、暫くパソコンの前から動けず、茫然自失の状態になりました。

 Yさんは『きっと先生と相性が悪かったんだ。気にしない!』と気を取りなおそうとしたのですが、やはり気になってしまい、しばらく動けませんでした。しかし、「これじゃいけない」と思い、英会話教室宛てに、突然教室を退出するように言われた理由を聞くメールを送りました。

 二日後に英会話教室からの返事で、Yさん宅の電波の状態が悪かったことが判明しました。Yさんは、今まで自宅ではパソコンを使うことが殆どなかったので、そこまで思い至らなかったのです。しかし思い返してみれば、Yさんの部屋では携帯電話やパソコンがつながりにくかったのでした。 

 Yさんは、この出来事があった日の夜も、その翌日も『そうだ、こういう日こそ、活元運動で頭を空っぽにして寝よう!』と活元運動をしました。

 しかし『今までの私の英語は何だったのだろう?やっぱり、きちんと勉強してないから、ナンチャッテ英語だったんだ』とか、『会社での英語を使う仕事も、本当は全然できていないんだ』などの思いが頭の中で渦巻き、想念が止まず、よく眠れませんでした。

 その後、だんだん『もう英語なんて、見たくも聞きたくもない!』という気持ちになりました。大好きな海外ドラマさえも見なくなってしまい、『どうせ、私の英語に対する興味なんて、こんな程度なんだ』と、どんどん負のスパイラルに陥って行ったのです。

 個人指導では、自分では忘れていたのに、その時の衝撃が身体の中に入り込み、そのまま停滞していたことがよく解りました。その出来事の後から、体がねじれて正坐ができなくなり、尿の出が悪くなっていたのですが、指導後は気持ちが落ち着くと、正坐ができるようになり、尿の出も良くなったのです。

 こうして、気が切り替わると体が変わるということは、身を以て実感すること、納得することで初めてわかるというものです。

 Yさんはこの指導で、このような情動が起きると、右鼠蹊部を起点に体が右側に捻れる癖があることがよく理解できました。

 また、個人指導を受ける前までは、目が霞むような感じがしたのですが、きちんと正坐ができるようになった頃には、視界が晴れ、周りの空気が澄んで感じられるようになっていました。