野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第七章 禅文化「道」としての野口整体― 瞑想法(セルフコントロール)と心理療法 三5②

活元運動は「動く禅」―Yさん(40代女性)の指導例

② 生活で瞑想的(内に向かう)時間を持つ

 Yさんは文中で「自分では意識できない深いところに停滞沈着しているものを浮かびあがらせるためには、個人指導を受けることが有益なのだと思っています。」と言っています。内に入った負の感情・想念は、無意識のうちに深部へ入り込み、心身に悪影響を及ぼすのです。

 また、個人指導とともに、負の感情・想念を停滞させない「健全な心身」を保持する(じねんを保つ)には、日々の暮らしの中で、活元運動による修養と、自分自身の身体の在りように丁寧に向き合うことが大切です。

 Yさんの文章の最後のところのみ、掲載させていただきます。

 活元運動によって得る心地よさ、身心の統一感は、他人から聞いて頭で理解するのではなく、各自の経験と、自身の身体感覚を通して体得していくものです。活元運動による身心の変容には終わりはなく、日々、深化していくものだと思います。

「自らが健康に生きる力」を持っているということ、また、「潜在意識の存在を知り、そこから解放され、本来の自分に戻る方法」を教えていただけることは、大変ありがたいと思います。

金井 ①でYさんが、「その時の感情(情動)が身体の中から浮かび上がってきた」と言っていますが、これは「情動的自己洞察」というものです。

臨床心理の世界では、「知的洞察」と「情動的洞察」があるとされていますが、単に知性的に知る(知的洞察)範囲では、何ら身体に影響がないものです。身体全体で「ああ、そうだ。これだ!」と身心が開くようにわき出た気づきが、この情動的自己洞察というものです。

活元運動は不思議に、このような気づきをもたらすのです。

(註)洞察 心理療法の過程において、クライエントが自分自身や現実について気づき、理解しなおすこと。

心理療法では、悩み(症状・問題)だけに注目するのではなく、その背景へと視野を拡大していき、情動性を伴うなんらかの新しい事実の認知、つまり洞察を得ようとする。

 当時Yさんは、日常生活で自分の内に生ずる負の感情(怒りや不安、悲しみや恐怖、吃驚などの陰性感情)が、身体の不調に繋がっていること(=情動による偏り疲労)を自覚できるようになってきていました。

 内に生じた負の感情を抑えてしまうと、その感情が、自分でも気づかないまま潜在意識に入り込み、固まりとなって沈着停滞してしまい、本来の自分(無心・天心で生活する自分)ではなくなってしまいます。

 活元運動を通じて身体の要求に無心に順うことで、滞っていた負の感情・想念(沈着していた固まり)が自ずと浮かび上がり、それが流れ、こわばりのない身心に戻る。そして、澄んだ心「本来(あるがまま)の自分・本来の生きる力」を取り戻すことができるのです。