野口整体と科学 第一部第一章 野口整体と西洋医学―身心一如(一元論)と心身分離(二元論)四4
今回の内容は「健康と生き方」が別々に考えられるようになったことと、西洋医療との関係です。
残念ながら、新型コロナウイルスのパンデミックによって、病症を物質的な面から考え、「病気(ウイルス)と闘う」という傾向は強まっていると思われますが、その一方でストレスが健康に与える影響は再認識された面があります。
現在、新型コロナウイルス感染者は世界的に減少に転じているそうですが、アメリカの新型コロナウイルスによる死亡者は50万人を超えたと報道されました。
アメリカの死亡者の多さは特に目立っているのですが、新型コロナウイルスとは別に、アメリカでは過去10年の間に顕著となっている「絶望の病と死」が問題となっており、平均寿命が2015年から2017年にかけて毎年減少している要因とも考えられています。アメリカ人の心の中に絶望が巣食い、自殺や薬物依存、様々な疾患の素地になっているというのです。
こうした問題には社会的・経済的格差の問題も深く関わり、個人の問題とだけ考えることはできませんが、感染症に対する抵抗力の低下とも無縁ではないと思います。
(参考)
日本は新型コロナウイルスでは欧米のような死者数が出ていませんが、自殺者の急増、抑うつ症状の急増は深刻になっており、心理的な面での影響は海外と変わらないのではないでしょうか。
こうしたことを踏まえ、今回の内容を読んでみてください。
4 健康と生き方を全体的に捉えるホリスティック医学と全生思想
自分の心というものが除外された近代科学(第二部第四章「自分を知る智」とは で詳述)によって発達した西洋医学により、現代では、自分の病気、自分の体の具合の悪さ、という「体に起きていること」を、自分(の心)と切り離して(=客観的に)捉えています。このような捉え方を「客観的身体観」と言います。
「客観的身体」とは、持ち主の「主観の及ばないもの」を意味し、心と体、精神と身体が切り離された身体のことです。
このような身体観が人々の思考を無意識に支配するようになった結果、医師と患者は「管理する者」と「管理される者」― お任せ医療 ― という関係になったのです。
石川氏は、西洋医学が「生き方」の問題を見失っている、という反省に立つことで生まれたホリスティック医学について、次のように述べています(『複雑系思考でよみがえる日本文明』)。
ニューサイエンスとホリスティック医学
…「病気はありがたいできごと」という気づきは、人生を変え、自然治癒力を回復させる。そのような意味でホリスティック(全体的)な考え方は、生き方の問題と連動している。しかし、心と物を切り離し、物質だけを扱う自然科学からは、生き方は見えてこない。
この特質は長所と欠点の両面を持っているにもかかわらず、これまではその欠点に気づかずに文化が進展してきた。ホリスティック医学(全人医療)は、合理主義の長所の陰にかくれていた科学の欠点をかいまみる機会を提供してくれているように思われる。
科学である西洋医学では「病症」は肉体的にのみ捉えられ、「心」との関係、また「生き方」との関係の中では理解されてきませんでした。
1の引用文に見られる「精神と身体の統合された全体同士の触れ合いが忘れられた」医療に対する反省から、医者と患者の人間的な関係を回復しようとする傾向が、1960年代のアメリカで生まれました。
これは、西洋近代医学による、人間を生物化学的な機械として見る枠組み「機械論的生命観」それ自体に問題があるという気づきだったのです。
こうして、人間を「身体・精神・霊性」の三つの面から捉えるホリスティック医学(全人医療)や心身医学が生まれてきました(これらは近代科学の枠組を超え、宗教性が具わる)。
これは、東洋思想による影響なのです。
アメリカでホリスティック医学協会が発足したのは1978年(註)です。
(註)1992年には、アメリカ国立補完代替医療センターが設置され、西洋医学に代わる医療の研究が本格化した。同センターは、2014年12月、国立補完統合衛生センターと改称された。研究は、天然物(薬草など)と心身療法(鍼・瞑想・ヨガ・手技療法など)の二つのグループに分けられる。
日本では1987年、「日本ホリスティック医学協会」が設立されました。そこでは、ホリスティック医学の理念を次のように説明しています。
① ホリスティック(全的)な健康観に立脚する。
② 自然治癒力を癒しの原点におく。
③ 患者が自ら癒し、治療者は援助する。
④ 様々な治療法を選択・統合し、最も適切な治療を行なう。
⑤ 病の深い意味に気づき自己実現をめざす。
このような「ホリスティック医学」以前には、自然治癒力という概念は西洋近代医学にはありませんでした。
そして、患者は「自らの生活を改め、自身を正す」こと。そして医療者は、「援助者である」ことなど、欧米において医療の反省が見られる現代です。
ホリスティック医学は、観られる人、そして観る人においても、自らの身体にどのようなことが起こっているかを主体的に受け止める力(からだへの気づき)を育むという視点に立ち、自らの内側から体験するからだを対象とするものです(第一部第三章二 7)。
私の個人指導はこのようなものです(ただし④を除く)。