野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口整体と科学 第一部 第四章 科学の知・禅の智 二 1①

二 近代科学と東洋宗教(湯浅学

― 身心一元性を高めて自身の可能性を拓く 東洋的身体行である野口整体

  今回から、第四章二に入ります。ここでは、そもそも東洋的とはどういうことか?気とは何か?という内容が中心です。

 1の中に、「「うつ」は脳内物質の問題として扱われる」という一文がありますが、私は以前、ある人から、抑うつ状態で精神科に行ったら、最初に血液検査をされて驚いた…という話を聞いたことがあります。その人は精神科医と言えばフロイト精神分析、というイメージだったのかもしれません。しかし多くの「精神科」では、検査や治療は「生化学的」な手法が中心なのです。

それでは今回の内容に入ります。 

1 心のはたらきをすべて脳の機能で説明することはできない

― 心身結合の事実を無視した近代科学

心身二元論から物質一元論へ向かう現代

 第一~三章で述べたように、近代科学(物心二元論)は心を元として扱うことはなく、したがって近代医学 ―16世紀ヴェサリウスの解剖学に始まり、19世紀コッホの細菌学の発達により自然科学として確立した ―も、心の存在は無視し、物としての体(肉体)だけを研究の対象にしてきました。

 そして、19世紀以来の近代医学的心身観は「要素還元主義」(機械論的見方)が基盤となっています(註)。

(註)要素還元主義

近代医学の基盤に、自然科学が大きく前進することになった要因・還元主義(複雑な物事を分解して個別の要素を理解すれば、元の全体を理解できる)がある(第一章三 1参照)。還元とは、複雑な物事を何らかの根本的なものに置き直し、帰着させること。例・解剖学

  こうした近代医学において、心身関係を科学的に考える場合、還元主義という言葉には二つの意味があります。

 一つは、脳全体のはたらきは、その部分の機能を寄せ集めることによって成り立っているという意です。

 20世紀前半の脳生理学では脳機能の局在説が支配的で、様々な生理的機能や心理的作用の中枢は脳のどこかに局在しており、それらを寄せ集めることで心身のはたらき全体を説明することができる、という考え方です。

(視覚・聴覚などの生理的器官(眼・耳など)は局在的であり、これらの脳の機能中枢の位置は明らかで、運動器官(手足)も局在説がわりに適合する)。

 もう一つは、「心のはたらきの本質は脳の生理的活動に還元される」という考え方で、現代では、医学的に心のはたらきを考えようとすれば、心は脳の神経活動や神経伝達物質による生化学(生命現象を化学的に研究する)的作用と説明されます。

(それで「うつ」は脳内物質の問題として扱われる)

 心身二元論物心二元論)の立場に立ってきた近代科学は、このような医学研究「精神(心)のはたらきを物質の作用に還元しようとする」において、物質一元論にまで進んできたと言えるものです。