野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

付録 「心を考える」は流行でしかない 5

5 心と身体の感受性を取り戻さなければー身体文化が育てる心

  日本においては、海外の文化を取り入れることはとても大事なことでした。その結果、江戸時代までの日本は、神道を基とし、大陸よりの儒・仏・道教が融合した東洋宗教文化というものでした。

 しかし、明治に入っての、西洋文明に追随する日本のありようはあまりにも急速すぎました。長い年月をかけて西洋文化と付き合うべきだったのに、急な変化は弊害を起こす危険性が大いにあるのです。

 現代の日本人にとって大事なことは、急激な西洋化の中で失われた「心と身体の感受性を取り戻す」ことであり、日本の伝統的な生活、身体文化の特質を見直す努力が肝要なのです。

 私は、伝統的な和文化そのものに触れたというのは、剣道を少しかじった程度ですが、十九歳より野口整体を学び、長年の整体指導を通じ「気を学ぶ」ことで、日本人の「身体と感受性」を認識することができました。また「気」による「日本的感性」の錬磨を通じて、様々な日本文化を理解できるようになった(註)と思っています。

(註)芸能や芸術に全く無縁だった私が、武道館での「美空ひばり三五周年リサイタル(1981年6月)」で心打たれた感激は忘れ得ぬ思いです。これをきっかけとして、その他の日本文化に対する理解が大きく深まっていったように思います。芸術的な素養などなかった私が、これほどまでに「ひばりの心の世界」に打たれたのは、感覚の練磨を通じて感性の世界が開かれたからです。

  せっかくこれほどの素晴らしい伝統文化を持っていても、多くの人々は自分たちの生活や社会にこれを活かすということが、全くと言っていいほどできなくなってしまっています。

 私はこのことが残念でなりません。これほどたくさんの人たちが心や身体の問題で悩んでいるときに、野口整体を通じて、日本文化や日本的な身体操作を取り戻すことは大きな意味があることと思っています。

 失われてきた身体文化をどう取り戻すか。具体的に一つ言えば、「坐の生活」、つまり正坐ということです。

 正坐をすることは、自ずと腰が鍛えられますし、特に、当会で「正しい正坐」と呼んでいる正坐(坐骨を踵の後ろに置く、仙骨を立てた坐法)は、下半身のはたらきが脳に与える影響(上虚下実)を体感することができます。

 これを積極的に進めるには、蹲踞や四股といった相撲の基本動作が良いと思います。アメリカのメジャーリーグで、イチローがこういった日本的身体操作により、活躍を見せているのは、皆さん御承知のことと思います。彼が打席に入る前、入念に腰構えを作って準備している場面をテレビで御覧になったことがありますね。