野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

付録 「心を考える」は流行でしかない 9

9 活元運動は「動く禅」

(金井)

野口晴哉は、意識がつかえた(分からなくなった)ら、「意識を閉じて、無心に聴く」と言われ、「活元運動」を励行されました。

 活元運動は別名「動く禅」とも呼ばれ、瞑想法なのです。無意識の声に耳を傾け、「裡の要求」に敏感になることが目的で、決して「神秘な霊動法」といったものではありません。

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 実際の活元運動を見せてもらった。

 男性が正坐をし、その後ろから金井氏が背中や頭部に手を触れて観察し始めた。「頭頂部の左側が右に比べて出っ張っています。これは怒りの感情があるときに出るものです」。金井氏は説明しながら、愉気を行った。

「最近、何か怒りませんでしたか」と金井氏が男性に尋ねた。

「そういえば…」。男性には心当たりがあるようだ。すると、男性の身体が左右に大きく揺れだした…。

「左右の運動が起きてきました。今、私の「気」と、彼の「気」が感応しています。このとき、相手の自発的な要求を誘導しつつ、相手の邪魔にならないことが、指導者(施術者)に要求されます。最初は押さえるのですが動いてきたら離します」と金井氏。

 しばらくして、金井氏が男性にうつ伏せになるように指示をした。男性の左側に坐し、背中に両手を当てると、「心配事を抱えているんだね」と氏はつぶやいた。「気による観察」により、これが分かるという。

「ちょっと男性の体を触ってみてください」と金井氏。男性の身体全体がじっとりと汗で濡れている。さらに顔も紅潮していた。「わざと」ではできないだろう。先ほどの正坐での活元運動による発汗なのだという。

 その後仰向けになり、氏の手が背中と肝臓あたりに触れると、ゴロゴロと自ら転がった。にわかには信じられない光景だ。この動きは約十五分間続いた。男性は転がるだけでなく、大きくねじったり、時折「ビクッ」と痙攣のような動きを見せた。

「この動きは止めようと思えば止められます。でも、身体が動きたがっているので、止めないんです。あくびと一緒で止めたら気持ちが悪いんです。」と氏は続けた。

 男性は活元運動が終わった後、「運動後は本当に爽快ですよ」と、すっきりとした表情で話してくれた。

 活元運動が現れる時期は個人差があるという。男性は二年間出なかったが、金井氏の個人指導により、ようやく最近(半年程後に)出始めた。

 男性の「怒り」や「不安」が、運動を通じて発散されていくのだという。「体の要求」というものを実際に目にした気がした。頭の中で凝り固まった感情の噴出を「身体が行う」。そう考えると、活元運動の理論がすんなりと頭に入った。

 指導後の男性は、「心配事を抱えていたことで怒りっぽくなっていたんだ」と納得した様子だった。

(『月刊MOKU』中嶋隆)