野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口整体と科学 第一部 おわりに 2

おわりに 2

石川光男先生に初めてお会いする

 当会の広報室長真田興仁の縁で、石川光男先生にお会いすることができたのは、2012年2月1日のことでした。

 私は、この道を進もうとする(とりわけプロを目指す)人が野口整体を深く理解する上で、また、一般の人においても野口整体の理解を進める上で、先の「背景にある文化」を知る、それは「東西の世界観の相違を理解する(=「禅文化としての野口整体」を科学に相対化して理解する)」ことが是非に必要だと考え、氏にお会いし、今後のつながりを切望したのです。

 次は、広報室長から石川先生に宛てた面談依頼の手紙の一部です。

二〇一四年春

石川光男先生

 はじめてお手紙を差し上げます。

 …私は現在妻と共に、金井省蒼(蒼天)先生の下で、故野口晴哉氏が提唱した「野口整体」を学んでおります。金井省蒼先生は、野口晴哉氏晩年の直弟子であり、整体指導者としての道を歩んで四十数年になります。著作に個人指導を受けた方の体験談を基軸にして、心理と生理の両面に関与する独自の整体指導についてまとめた『病むことは力』(春秋社 2004年)があります。

 金井先生は現在、静岡県熱海市で「野口整体 気・自然健康保持会」を主宰し、日々の整体指導の他、野口晴哉氏の思想を諸学の観点から今日的に再解釈し、紹介するための研究活動に携わっています。

 整体指導を求めて来る人の多くは、三十代、四十代で、いわば活力に溢れて生きているはずの人たちです。学歴的な背景を見ると、大変優秀な人も少なくありません。しかし、現状は「自分の事がわからない。どのように生きたらよいのかがわからない。」という生きることへの根源的な問いに対する答えを求めて指導に訪れます。

 金井先生は日々、整体指導を積み重ねる中、身体の状態をつぶさに観ることを通して、現代人の抱える問題を深く理解して来られました。

 身体を観察し、掌で触れて感じ取り、そこから一人ひとりの心(潜在意識)に丁寧に接していくと、心身の分離によって生じた現代に生きる人々の問題が浮き彫りになります。「心と体は一つ」という身体観に基づき、一人ひとりの身体感覚を涵養することを通して、日本の伝統的身体智を育むことが金井先生による整体指導の目的です。

 金井先生は、こうして感じ取られてきたものを、言語化、論理化して伝えていくことの現代的必要性を痛感しておられます。戦後社会の大きな変化・科学的現代社会の進展により、伝統智・東洋宗教文化を失ったことは、生き方を分からなくさせていると伝えたいとのことです。

 この点に関して、石川先生の御著作を通して、多くを学ばせて頂いたとおっしゃっています。

 金井先生は、特に、西洋の非連続的自然観・世界観に立脚した近代科学の知、それに基づく教育の影響が、心身二元という今日の問題の基となっていることへの理解を深めることが出来たと感謝されています。

 野口整体は、日本の伝統的身体文化・宗教性に基づく修養であり、この修養が身体智を開拓し、感性を高め、生きる領域を広げていくというのが、金井流野口整体の見解です。

 野口整体を、このような観点で伝えるため、昨年十月、金井先生は『「気」の身心一元論 ― 心と体は一つ』を自費出版いたしました。

 現在は、科学的機械論に対する「目的論」を主題とする、姉妹編を出版すべく執筆を進めています。

 近々石川先生とのご面談の上、様々ご教示いただく機会を賜りたく、お願いを申し上げます。

 お許しいただけましたら、石川先生のご都合に合わせ、ご指定の場所にお伺いしたいと思っております。ご検討の上、私宛にご連絡をいただけましたら幸甚でございます。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。尚、金井先生執筆資料として先に述べました近著と、そして次著の「はじめに」を同封いたしましたので、ご閲読頂けましたら幸いでございます。重ねてよろしくお願い申し上げます。

二〇一二年一月十日

(註)

 真田興仁はペンネームで、第二部(下巻)では氏の書いた長文の体験談が全文使用され、金井先生が細部に亘って注釈を入れている。『「気」の身心一元論―心と体は一つ』にも体験談は掲載されているが、大幅に加筆・推敲がなされた。