野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第二部 第三章 一2 「病症を経過する」ことで自然治癒力を理解する

2 「病症を経過する」ことで自然治癒力を理解する

 2004年4月。真田さんは勤務先の法人で管理職に昇進した。自分は「人前に立つことは決して好まない性質」だと思っていたが、上司が亡くなるなどの出来事があり、さまざまな事情でしぶしぶ管理職になったのだった。

 それでもやるからには皆に好かれ、慕われる上司になることを目指した。それで、職員の身分・待遇の改善に努め、飴を与えるような方向性を打ち出していった。

 それが一時的には功を奏したものの、「皆に好かれようとする」という方向はうまくいかなかった。真田さんは「今考えると非常に稚拙だった」と振り返っている。

 そして2006年。真田さんは強いストレス要因となる出来事が重なり、仕事を休む日も多くなってきた。そしてこの年の3月、大きな変動を経験する。

 就寝時、右耳の下に「針が刺さるような痛み」を感じた後、40℃を超える発熱があり、右耳を中心に顔の右半分が大きく腫れ、ひどい痛みにおそわれたのだ。

 すぐ病院に行くと、顔面ヘルペスと診断された。この時は処方された薬を服用するとすぐに症状は治まった。

 しかし5月になって、再び右耳の下に針が刺さるような痛みと高熱が出た。ただ、前回と違っていたのは苦痛がなく「精神が高揚して、元気であるという感覚」があったことだ。熱を測った時、41℃という数値には驚いたが、高熱に対して不安は全く感じなかった。

 その時、『風邪の効用』にあった野口先生の言葉を思い出し「熱が出ている時は大丈夫だが、下がってくる時に安静にする」という内容を思い出した。

 苦痛もなく、大丈夫と感じたため、病院に行くのはやめることにした。野口整体の理論を自分で検証してみたくもあった。

 その後、熱が少しずつ下がって38℃くらいになると、激しい頭痛が始まって、非常に苦しく、動くことが出来なくなった。平熱近くになると、身体が非常にだるくなった。こうして野口先生の言うとおり、休まざるを得ない状態になったので、よく休むようにした。

 平熱になり、しばらくすると身体全体が更新されたような感覚になり、皮膚も綺麗になっていた。真田さんは身体の不思議な力を感じ、この体験を通じて「病症を経過する」という意味を、おぼろげながら理解した。

 真田さんは論理的な学問体系がないと納得できない性質で、東洋医学に共鳴できたのも、陰陽五行説などの理論体系があったからだった。しかし野口整体の深遠な思想は論理では理解できない。そこが真田さんにとって理解を進める上でのハードルになっていたようだ。

 この体験を通して、真田さんは野口整体に関心を深めていった。それは自然治癒力を活かす、ひとつの「健康法」として理解したいレベルで、野口整体の深淵にまでは思いが及ばなかったが、自分なりの実践を進めて行った。

 真田さんは子どもの頃から持病のアトピーのため、ステロイドの入った軟膏薬を毎晩入浴後に付ける習慣だったが、今回熱が出た時には付けずに過ごした。しかし高熱を経過した後、皮膚が以前より綺麗になっていたのだ。

 その後、一切薬を付ける必要を感じなくなり、ステロイド薬を止めて現在に至っている。

(註)顔面ヘルペス

単純ヘルペスウイルス1型によって起こる感染症で、部位別に口唇ヘルペス、角膜ヘルペスなどと呼ぶ。多くの人が乳幼児期に感染し、無症状または口内炎をともなうかぜ症状として初感染する。感染後、ウイルスは顔に分布する三叉神経の根元に潜む。その後、潜んでいたウイルスに再感染→再発症し、皮膚や粘膜に小水疱やびらん(ただれ)を主体とする病変が生じる。疲労、紫外線、免疫低下などが引き金になって繰り返すことが多いが、初発程は症状が重くならない傾向がある。

参考・日本皮膚科学会HP