野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第四部 第一章 三1 無心を妨げていたヘリゲルの近代的精神― 自我から無我への大きな峠②

②日本の身体行と呼吸

 ヘリゲルは呼吸法について、『日本の弓術』で次のように述べています。

…先生は説明して下さった。――「あなたが弓を正しく引けないのは、肺で呼吸をするからである。腹壁が程よく張るように、息をゆっくりと圧し下げて、痙攣的に圧迫せずに、息をぴたりと止め、どうしても必要な分だけ呼吸しなさい。

一旦そんな呼吸の仕方ができると、それで力の中心が下方へ移されたことになるから、両腕を弛め、力を抜いて、楽々と弓が引かれるようになる」―― 先生はそれを実証するため、自分の強い弓を引き、私に腕に触ってみるようにと言った。じっさいその両腕は、なんにもしていない時と同様に弛んでいた。

『新訳 弓と禅』では、呼吸法について次のように述べています(Ⅲ.稽古の第一段階―引き分けと呼吸法)。

呼吸法の教え

師は私に教えられた。

「それ(力を抜いたまま弓を引き、射る=射ることが精神的になる)が出来ないのは、あなたが正しく呼吸していないからです。…呼吸が正しく出来るようになれば、弓を射るのが日に日に楽になることに気づくでしょう。この呼吸法によって、あなたはすべての精神的な力の根源〔丹田(たんでん)〕を発見するのみならず、力を抜けばそれだけ、この源泉から力がより豊かに流れ出し、より容易に四肢に注がれるようになるでしょう」

…けれども我々は(妻も)当時はこのことを理解できなかった。

…私は、かの日々を振り返ると、呼吸法が効果を現わすまでは、最初はいかに困難に感じていたかを思い出さざるを得ない。

 こうしてヘリゲルは弓術の修行に打ち込み、一年かかって正しい呼吸と力を抜いて弓を引くことを会得しました。正しい呼吸とは「自分が呼吸するのではなく、呼吸させられているという気持ちを持つまでに至る」ことでした。

 彼は正しい呼吸法を身につけることで「内的発展の先(せん)を越さず、物事をいわば自然の重力に委ねる忍耐」について学んだと述べています。

 そして矢をつがえ、二米先の巻き藁に射放つこと(離れ)を許されましたが、師はこの時、ヘリゲルに「あなたがそんな立派な意志をもっていることが、かえってあなたの第一の誤りになっている。あなたは頃合よしと感じるかあるいは考える時に、矢を射放とうと思う。意志を持って右手を開く、つまりその際あなたは意識的である。あなたは無心になることを、矢がひとりでに離れるまで待っていることを、学ばなければならない。」と教えます。

 しかし彼は、この「離れるまで待つ」という教えが理解できず、意識的に矢を放してやらなければ、矢は放たれるに至らない(指を意志的に離さなければ矢を放てない)と強固に思っていたのです(これが、第二部第三章二 3で述べた「理性と随意筋による自己支配」という近代的心身観。同 4師野口晴哉「意識は総てではない。…」参照)。