野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

禅文化としての野口整体Ⅰ 活元運動 第一章 一2 不快情動による硬張りが錐体外路系のはたらきを妨げる

今回の内容は、体を整えることと情動のつながりが主題です。

 情動についての話をすると、何事にも動じない(=情動が起きない)ようになりたいという人がいるのですが、それは快も不快もなくなるということなので、仮にそうなったら健康に生きることは難しいかと思いますし、正直、生きている限り不可能でしょうね。

 そうではなく、大切なことは情動が起きた後、潜在化した感情エネルギーに頭と体を乗っ取られないようになることなのです。

 それでは今回の内容に入ります。

①活元運動の生理学的解説

 先に述べたように、情動とは怒ると顔が真っ赤になったり、恐怖に襲われ不安になると心臓がドキドキし声が上ずったりするなど、感情が身体に変化を及ぼすことです。

 そして、このような変化は、生理学では一過性のものとされていますが、これが治まった後も、不快情動による硬張りは、整体指導時、「偏り疲労(=陰性感情の潜在意識化)」として身体に観察され、整体操法の対象となるのです(情動が急激であるほど硬張りは強い。また、正の感情体験(快情動)も身体に観察される)。

 不快情動(陰性感情)による身体の歪み、それは交感神経の興奮による「緊張」が体に持続していることで、主に背中が硬張る(上体に力が入る)ことで腰にきちんと力が入らなくなるのです。こうした、気が上っている不整体(=「上実下虚」の状態)では、主体性は発揮されません。これは、秩序を失った(秩序が隠れた)状態を意味するものです。

 個人指導では、この状態に対して体を整えるのですが、これは、秩序を回復させることなのです。身(身体)の硬張り(硬張りは皮膚から筋肉・骨に至るまですべてに顕れる)が弛むと、無意識のはたらきである「秩序回復機能」が十全にはたらき、隠れていた秩序が顕れるのです。

 生理学では、身体の運動に関する神経系(=運動系)には、二つの回路があると考えられています。

 意識によって体を動かす働き(随意運動)をする神経系を「錐体路系」、無意識に体が動く働き(不随意運動)をする神経系を「錐体外路(性運動)系」と言います(錐体外路系錐体路系以外の神経系の総称)。

 錐体外路系は筋緊張や筋群の協調運動を反射的に行ない(脳のさまざまな部分が協調して統合し自動的に調節)、随意運動が起こるとき、全身の筋をバランスよく動かして、運動を円滑にする神経系です(あくび・くしゃみ・寝返りなどの反射運動も錘体外路系による運動)。

 錐体路系によって意志を以って(下肢で)歩くことが可能ですが、このはたらきのみで歩く運動がなされるのではなく、上肢や体幹の多くの筋肉の動きが調和することで、円滑な歩行となるのです。この時、動作時の力加減や姿勢などを調整し制御しているのが錐体外路系の働きです。

 生活している場で、普段はすらすら運んでいても、つまづいたり、体をぶつけたりすることがあるのは、このはたらきが鈍っている時なのです(野口整体では心臓や胃腸のような自律的(無意識的)な運動も、錐体外路系と連関する運動として捉える)。

 活元運動を訓練することは、「自ら秩序を回復させる」はたらき=「自発的秩序形成」機能・「自己組織化(註)」能力を体得していくことなのです。

(註)自己組織化

複雑系の科学で「自律的に秩序を持つ構造を作り出す現象(自発的秩序形成)」を言う。