禅文化としての野口整体Ⅰ 活元運動 第三章 活元運動を通して啓かれた潜在意識 一1
一 失われていた「本来の自己」を取り戻す
1 自我の主体性を奪う「コンプレックス」― 四十年前の記憶が蘇る2013年6月2日の個人指導
個人指導に通い始めから、活元運動がよく出たYさん(女性・四十代)の指導例です。
この人は感情を過度に抑制する傾向があり、それは、幼い時の宗教的な教えが入ったからではないか、などと初めのうち私に話したりしていました。
しかし、活元運動が活発になるとその中で笑い転げたり、後には激しく動いたりするようになりました。
当分の間この様子を観てきた私は、ある個人指導時、それは、通い始めからちょうど一年という時でしたが、「この活発さは持ち前のもので…」と、何気なく、Yさんの右肘に触れながら言ったことがありました。
そんな中で、彼女は自身の心の深層に降りて行ったようで、幼い頃の至極活発な自分を思い出し、指導の終わりに、それ(活発な心)が失われた時のことを私に話すことになりました。
それは、小学校一年生の時、雲梯から落ちて右肘を骨折したことでした。
当時、初めの病院での処置が良くなかったことがあり、別の病院で再手術をし、その後有名な治療院にも通い、治るまで長くかかったそうです。
それで、母親が費用の面で苦労していたようで、過労から台所で嘔吐している母親の様子を見た兄が、「お前のせいだ!」という言葉を投げかけたそうです。以来、この人は「良い子」を生きるようになってしまったようです。
ここで、私がこの話を取り上げるのは、Yさんは、ここ数カ月「生き方」に目覚め、「生き直し」の意志を持って、来始めとは全く違うYさんとなっており、こういう中で、四十年にもなるという、その時の「兄の言葉」を明瞭に憶(おも)い出したからです。
Yさんにおいては、「兄の言葉」が潜在意識に入り、とにかく人に迷惑をかけないよう、感情を抑え、人に気に入られようとして生きるようになったようです。
右肘に触れながら、先のように語りかけることで、Yさんはその時(四十年前)の心象風景を、深々と思い出していたのです。
自我の主体性を奪う「コンプレックス」形成の核となった出来事が、瞑想法である活元運動によって呼び起されたのです。