野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口晴哉生誕百年―臨床心理による整体指導 序章 一5

解剖学を基礎とすることで生じる「思い込み」― 生きたまま観察することで分かること

金井 私が若い時に、お産をしたことのある女医さんが「出産直後に仙骨が「ぼきん」と音がしたので、動くかもしれない、と思った」と、テレビで言っているのを見たことがありますが、その時代までは、そういう人以外、骨が動くと思っている医師はいませんでした。しかし、骨盤(仙骨を含む)は動いているのです。

そのような思い込みも、最初に「人骨」を、家の柱のように人間の体の「骨組み」だと認識することに発端があるのではないかと思います。医療に「生きている人間」の全体性を観るという視点が欠けているのも、「死体解剖学」が基になっているからですね。

上村 そうですね。

 啓哲塾に通い始めて最初驚いたのが、頭蓋骨が動いたり、肋骨が簡単に動いたりという、そういったところでした。

 僕らは頭蓋骨を解剖実習の時に見たり、模型で見たりするのですが、コンコンと叩いてみても動きそうにない、硬い頭蓋骨しか見ていないので、あれが、ひしゃげたり動いたりしているというイメージはどうしても持てなかったのです。

 Sさん(塾生)の頭を触らせてもらった時に、左が膨らんでいる感じに触れたのが最初でした。それが金井先生の操法が終わった時に、左右が同じ感じに整って、狐につままれたような、と言うか、触った時にすごく驚きました。

 それ以来、脳外科出身の友達などに、「頭蓋骨って動くと思う?」と聞くのですが、やはり誰一人として「動く」と言う人はいなくて、「動く訳ないでしょ、あんなもの!」という反応ばかりです。思い込みというのは恐ろしいものだと思います。

金井「ものを手で捉える」ということは、人間がそれを知覚したり理解したりすることの原型となるものです。

 動かないということが科学的な見解だと思っている人は、初めにシャレコウベを見て、(本物だから、棒で叩くことはしないでしょうが)手袋をした手でこう見てですね、動くとは思えないですね。「これは動きませんよ」とは習いませんけど、「と、思い込んでしまう」ものがあるわけです。潜在意識教育ですね。