野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第二部 第三章 二 身心一元性を取り戻す野口整体の体育・活元運動 1

二 身心一元性を取り戻す野口整体の体育・活元運動

 今日から二に入ります。

 真田さんは、職場のストレス状況が次第に厳しさを増していく中で、活元運動の会に参加することを決めました。しかし、心身は次第に追い詰められ、仕事も休みがちになっていきました。

 当時、金井先生の個人指導は受けていませんでしたが、事情は先生の耳に入っていました。そして金井先生は、真田さんが熱海道場の活元指導の会に初めて来た日「これからこの人に正面から取り組むことになるな」と、思ったと言っていました。

1 熱海の活元指導の会に参加する―「意識を閉じて無心に聴く」活元運動

 真田さんは高校時代、自転車競技モスクワオリンピックに出ることを夢見ていた時があったほどスポーツは得意だった。しかし、初めて参加した活元指導の会で活元運動の準備運動をした時、真田さんは自分の身体が不自由だと強く感じたのだった。

 スポーツは得意なはずなのに、一見何ということもない準備運動がこんなに難しく、上手くできないということに困惑した。そして、この思うように動かない体が、職場での自分の有様を思い起こさせた。真田さんは、「自分の身体も満足に動かせないのに、人を動かすことができるはずがないな」とつくづく思い、呆れてしまったのだ。

 少しずつ、自然に吐いていく呼吸に合わせ、「脱力」していくのが活元運動の準備運動の基本だ。しかし、脱力する感覚がつかめず、動く時に力が入ってしまう。脱力するのだと頭で理解してやってみても、体は思い通りにならない。真田さんはそこで「身体に不自由さを感じた」のだ。あたかも、自分(意識)と身体(無意識)が別なところにあるという感覚だった。

 また、真田さんは活元運動に入る時「意識を閉じる」ということが全く理解できなかった。ただ、準備運動後、活元運動が始まった時の周囲の静寂の中には躍動感があり、同時に心が鎮まっていくような感覚があり、会が終わると食欲が出てきたという。

 その後も参加を続けていたが、「前後左右バランス良く動かすべきではないか」とか、周囲の人の良いと思われる動きを見て「見本にして動いてみよう」などと、意識が先だった活元運動になりやすかった。するとあの「身体が思うように動かない」という不自由さを感じることになった。

 スポーツのトレーニングでは、筋肉をどう動かすかに意識を集中し、技能身に付けていく。こうした方法に慣れていた真田さんには、活元運動の準備運動と活元運動は難しく感じられた。

 しかし、頭で「動かそう」ということに疲れ、「上手に動かす」ことをあきらめた頃、身体が気持ちよく「動く」ということに気づくようになった。

 こうして活元運動が「体の自然に委ねる運動」であることを少しずつ理解していったのだった(第四章一 1に続く)。

(金井)

 スポーツでの体の使い方は、意志で筋肉(随意筋)を動かすというものです。活元運動は、脱力のまま反射的に動くもので、準備運動においても脱力が基本です。

脱力できていれば、初めての準備運動であっても、それなりに身体は動くものです。

 科学的教育(スポーツを含む)を受けた現代人は、無意識的に日本人なりの、近代的な自我意識が形成されており、脱力や無心であることが、始めは容易ではないのです。脱力不能になっている状態に気づくことが「整体」への道筋です(傍線部は、敗戦後は伝統文化が切り捨てられ理性至上主義教育となったことでの「心身二元」の状態)。

 師は、意志によって行なう運動ではない活元運動について、次のように述べています(『月刊全生』昭和33年3月 整体指導法初等講習会)。

活元運動の誘導と観察(二頁)

 硬直して弛み得ない部分を弛めるということにおいても、活元運動は最も理想的な体操であります。何故かというと、意識で弛めようとしても弛め得ない部分まで動いてくるからです。

 つまりこれは意志によって行なう運動ではなくて、その神経自体の反射運動であり、神経系統自体の運動であるということがその特徴であります。だから意識では動かせない部分を動かすことができるし、普段は出せない能力を呼び起こせるのです。

 胃袋の働きであっても、腸の働きであっても、それが鈍っていればそこが動いてくる。そこに愉気をすれば、さらにそこの働きが呼び起こされてくる。愉気や活元運動の目的はそういう体の中で眠ってしまっている力を呼び起こすことなのです。

 とりわけ、反射(註)運動であることが、体操やスポーツと異なるところです。(活元運動は意志で動かすわけではないが、行おうとする意志は、是非に必要)

(註)反射

脳で意識しないうちに脊髄が中枢となって起こる反応。