第五章 野口整体と心身医学の共通点
(補足2)金井省蒼(蒼天)先生が捉えていた野口整体の宗教性 金井先生が亡くなる直前の原稿にはありませんが、前年の原稿にはこの指導例の後に鈴木大拙『禅とは何か』(春秋社)からの引用が入っていました。 これについての文章はないのですが、金井先生…
補足1 Iさんの指導例のまとめ 先生が亡くなる直前の原稿にはないのですが、Iさんの指導例としてまとめた原稿の中にあった内容を転載し補足とします。 これは、このIさんの指導例のまとめとなる部分です。 「感情」に対する「身体的取り組み・正坐」がもたら…
今回はIさんが「なぜ感情を内攻させるのが常態化するようになったのか?」が主題です。 今回、宗教的な教えが自動的に感情を抑圧する要因になった、という話が出てきますが、このような例は意外と多く、宗教もキリスト教系、仏教系、新興宗教、伝統宗教さま…
一般にストレスというと「○○が原因でストレスを感じる」と、外的要因とそれに対する反応、と考えるものです。これが科学的なストレスの考え方(ストレス理論)であり、そういう理解が一般的なのですが、それだけでは自分の問題というのが見えにくくなってし…
生前、金井先生は、塾でIさんの指導から「精神的な腰」についての話をしたことがありました。 腰というと、一般に生理・解剖学的というか、肉体的な意味での腰というものしか知らなくて、それが痛いとか歪んだとか言っているだけのことが多い。 腰というのは…
第四章までに述べた情動と偏り疲労についての内容を少し復習しておきましょう。 野口整体で説く「要求を中心とした生活」を実現していくためには、体を整え、感覚を正常化する必要がありますが、そこで障害になるのが、意識できない情動の停滞です。 この情…
今回の焦点となる味覚は、生理学的に言うと「外界感覚(外受容感覚)」という外界を知覚する感覚(五感)のひとつです。食物の異化作用・同化作用と密接に関わり、体調によって鈍りが起きやすいことは、経験的に良く知られているかと思います。 この味覚を正…
三 情動に着目する心療整体― Iさんの指導例 今回から、金井流整体個人指導の心身医学的解説とも言うべき、指導例を用いた内容に入ります。 今回紹介するIさんは、金井先生の指導を受けていた人の中ではお世辞にも優等生とは言えない人!なのですが、先生か…
「内界への適応」の大切さを説いた池見氏 ― 野口整体は「潜在生命力の喚起」による人間的な成長を目標とする 池見氏が目指した心身症の治療の第一は、4から表してきたこのような病状への理解と「心身相関」への気づきを促すことです。 池見氏は「新しい皮質…
身体感覚と恒常性維持機能 野口整体では、整体であるため、身体感覚を高めることを専らとするのです。感情に対する自覚と身体感覚の敏感さは一つのことで、これは経験則からの確信です。 師野口晴哉が説いたことを一口で表すと「整体を保って全生する」こと…
今回は野口整体で言う「鈍り」の問題である失体感症(アレキシソミア)についてです。 身体感覚と情動についてはこれまでも紹介してきましたが、池見氏提唱の「アレキシソミア」には、感情の言語表現に注目する欧米とはまた違う、東洋的な心の理解が表れてい…
今回は、心身症になりやすい人の傾向とされている「アレキシサイミア」についてです。 池見氏が失感情症と訳して紹介したアレキシサイミアは、感情がないのではなく、「感情として表現することができない」という意味をはっきりさせるため、現在は「失感情言…
心身症と陰性感情― セリエのストレス学説 野口晴哉先生は、セリエのストレス理論を「上下型2種の病理をほぼ完全に説明している」と述べています。しかし、「こうも頭で生きる人が増えてしまった」(野口晴哉)現代においては、このストレス理論はより普遍的…
今、新型コロナウイルス感染症の問題で、免疫力を高める食べ物などに関心が集まっています。 「ストレスや心配事は免疫機能を低下させる」と一般にもよく言われることですが、これを科学的に研究することは脳科学と免疫学を統合する必要があり、非常に難しい…
前回の続きで、心身医学がぶつかった壁についての内容です。 現在、心身医学の世界では一人の医師が体と心の両面から、一人の人間をまるごと診るというやり方ではなく、各専門医と心理療法の専門家がチームで行うという方法が取られている様です。 池見氏も…
ライサー氏の心身観にある宗教的背景 ライサー氏の「心身一体の考えに徹することは、不死への望みを断ち切ることになる」というところはちょっと分かりにくく、生前、金井先生も理解しきれないところがあって、このように思うのはなぜだろう?と何度か話題に…
①東西の医学の出会い― 西洋思想「心身二元論」の壁 池見氏は1977年9月、京都国際会議場で第四回国際心身医学会が開かれた際、組織委員長を務めました。 氏は、当時の学会会長であるアメリカのライサー氏(エール大学教授)の開会講演「東西の医学の出会いの…
心身一如の医学と死生観 本文中にある引用ですが、長いので補足資料扱いとします。 池見酉次郎氏は『人間回復の医学』(創元社)で、次のように述べています。 第一章 まるごと健康からの再出発 私どもは、三〇数年前から、…現代医学の在り方に対する反省と…
一で述べたように、アメリカやヨーロッパでは心理療法家や医師が、情動に関わる障害を治療する方法として東洋の身体行に注目し、研究がすすめられてきました。 近年では、ヴィッパサナ瞑想をメソッド化したマインドフルネス瞑想が、FacebookやGoogleなどの大…
現代人の心の問題を考えた深層心理学者は東洋の瞑想法の意義を捉えた 湯浅氏は『気・修行・身体』(第一章 東洋的身心論と現代 7)で、心身相関的見方を開拓した西洋の深層心理学者や精神医学者の中で、東洋の宗教的修行法(身体技法としての瞑想法)に関心…
人間の「精神的成熟」を目的とする東洋の修行法 ― 呼吸法の訓練をする瞑想法は自律系機能との対話 (金井) 哲学者である湯浅氏は、現代の神経生理学の立場から、「人格の向上とは、より深い無意識の感情のはたらき・愛や慈悲というものが意識に表れてくるこ…
人間の「精神的成熟」を目的とする東洋の修行法 ― 呼吸法の訓練をする瞑想法は自律系機能との対話 金井先生は生前、「修行」という言葉の意味が通じなくなった…とよく言っていました。それが、未刊の原稿の内容に取り組む動機になったのですが、それは身体の…
深層心理学が説いた無意識とは生理学の自律系― 心身分離から心身相関へ これまでに述べたように、感覚器官を支配する感覚神経は大脳皮質に中枢があり、自律神経の方は皮質下(大脳辺縁系・脳幹)に中枢があって、両者は分かれているのですが、条件反射は、こ…
(補足資料)東洋の修行法が目的とする情動のコントロール 湯浅康雄『気とは何か』 意志の自由になる皮質(感覚―運動)系の機能と、意志から独立した自律系の機能は、まったく無関係というわけではなくて、情動作用によって関連しているのである。したがって…
近年、画像診断の技術が進み、これまでできなかった生きた人間の脳と情動の神経生理学的な研究が進んでおり、先に紹介したアントニオ・ダマシオの研究は、特に注目されています。 そして、ストレス性疾患の原因であり、人間の進化の過程で取り残された余分な…
体の二重構造から心の二重構造(意識・無意識)を理解する道が開かれた ―意識と無意識をつなぐ身体感覚と情動 6は、身体感覚と情動について生理学的に論じた内容で、こみいっているため、補足を入れながら二回に分けて紹介します。 ①意識と無意識を生理学的…
条件反射理論という超唯物論的な研究が今回の内容です。 第四章で紹介したユングが、研究者としての地位を確立したのは、条件反射理論を応用して、無意識とコンプレックスの存在を立証する検査法(言語連想実験)の開発でした。 これは、「お金」「母」など…
近年、アメリカの神経学者・精神科医アントニオ・ダマシオの情動についての新しい考え方が注目されています。これは、脳からではなく「身体から情動が起こる」という立場に立つ見方です。 ダマシオが論じている情動と感情についての注目すべき点は、情動が意…
今のように感染症のパンデミックが問題になると、病原となるウイルスをターゲットにして、ワクチンや治療薬開発に全力を挙げる研究が脚光を浴びるようになります。 フランスのパスツール研究所、ドイツのロベルト・コッホ研究所などは、「病原細菌学説」の基…
野口整体と西洋の「心身二元論」的思考― 東洋と西洋の人間観の伝統の相違 心身二元論とは、人間を精神と肉体に分けて捉え、精神とは「理性」であり、理性が人間の魂(心)とされました。心身二元論はデカルトによって確立されましたが、歴史的に西洋思想の伝…