野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

脳と行動をつなぐ脊椎―気の思想と目的論的生命観18

脳と行動をつなぐ脊椎と生きる力・対話の力

 野口整体では、「要求と行動を一つにする」ことを、体力発揮の中心としています。要求を感じ、そして考え、行動する。最初に要求があることが自発的であるということです。

 自分は意志が弱い、こうしようと思っても行動にならない、行動になっても意思が持続しない・・・と言う人がいるけれど、問題は意志ではなくて背骨が硬い、またはつかえているのだと金井先生は言いました。

 野口晴哉先生は次のように述べています(『月刊全生増刊号』)。

 最初に感ずるということがある。そして思い考えるのである。

 

あらゆる行動の出発は感ずることによってなされる。考えているうちは行動にならない。

 

感ずることを豊かにする為には、その頭のなかをいつも空にし、静かを保たなければならない。頭を熱くしていては感ずるということはない。

感ずるということは頭ではない。

感ずるということは生命にある。

  今回の文章に「体癖」が出てきますが、体癖は「要求の方向」であり、要求の大本には生きようとする力、生命があります。その生命がもともと持っている方向性が「要求の方向」です。 考える時も、自分の要求が誘導されるものに発想が行くものなのです。では今回の内容に入ります。

 

(金井)

 師野口晴哉は「体癖」について、「脳と行動をつなぐ人間学」と言われましたが、この「脳」と「行動」をつないでいるのが脊椎です。

 脊椎(頸椎・胸椎・腰椎・仙椎・尾椎から成る)骨の中を通る神経が、脊髄神経です。

 このうち腰椎の五つの役割を説明しますと、一番は言語・思考能力、二番は感情の切り替え・情緒の安定、三番は安定・決断力、四番は集注・持続力、五番は冒険・行動する力。

 腰椎各部はこれらのはたらきを司どる運動系の中枢となっているのです。人間の脳と、生きていくための「はたらき・行動」をつないでいるのが、脊椎、特に腰椎なのです。

 そして、骨盤の中心には「仙骨(せんこつ)」があります。古くは「薦骨(せんこつ)」と書き、薦とは「神聖なるもの」という意味です。

 これは、江戸時代の蘭学者大槻玄沢により、西洋の解剖学書より「sacrum(sacred bone・神聖な骨)」を護神骨と訳したことに始まっています。人間だけができる二足歩行も仙骨にあるカーブによるものと言われています。

 腰椎と仙骨を中心とした骨盤部のはたらきが一点に集約されたのが「丹田(たんでん)」であり、肚(はら)を練るとは丹田力を養うことでした。

「正坐をする」というのは腰椎四番の働きで、腰椎四番の外側に呼吸活点(かってん)という急処があります。

 この働きがきちんとしている時、肺呼吸はもちろん腹式呼吸が深くなり、丹田呼吸となります。そして、「気(き)海(かい)丹田」という言葉のように、丹田より「気」の力が生ずるのです。

 丹田は「神性の殿堂」という言葉もあります。

 骨盤には生殖器という、直接的な「種族保存」の働きがありますが、人間社会における統率力こそ、この種族保存の大いなるはたらきです。個人を超えて、他者に働きかける力とは、この深い呼吸による「気の力」であるのです。

「対話」の時、その言葉に力があるかどうかは「呼吸力」にかかっているのです。

 呼吸の力は息吹(気吹(いぶき))の力です。英語でも、息を吸いこむ「インスパイアー」というのは、「人を鼓舞する」「人に活気、希望を与える」という意味もあり、呼吸が深いことで自身に活気があり、その活気によって相手に影響を与えることができるのです。

「腰・肚」ができていた、かつての日本人には呼吸力がありました。「背骨に気を通す」ことで自分自身を活気づけ、そして感性が働くことによる、総合的な判断力・決断力を得て、より啓かれた存在となる働きが「背骨(脊髄神経)」にはあるのです。