野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 7

自己知と自己教育の重要性―自我から自己への中心の移動- 無意識の目的論的なはたらきを理解していく過程上で、ユングが特に着目したのは、心の自然治癒力とも言える「無意識の補償(足りないものを補う)作用」です。 補償作用とは、その人が生きていく上で…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 6

精神科医であったユングは、心を病むことについて次のように述べています。 「あらゆる病気と同じように、神経症も適応不全の症状です。なんらかの障害(体質上の弱さや欠陥、間違った教育、良くない体験、不似合いな態度など)のために、人生がもたらす困難か…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 5

クロノスとカイロスのところで紹介した『モモ』(ミヒャエル・エンデ)では、モモは生命時間を司るマイスター・ホラに抱かれて自分の心の奥底にある時間のみなもとを見に行きます。 そこには池があって、大きな振り子が刻むゆっくりしたリズムに合わせ、水の…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 4

ユングの「未来から現在を考える」目的論と野口整体の気の生命観 東日本大震災の後、被災した人の中に PTG(心的外傷後成長)というものが多くの事例で起きたことが世界的に注目されました。 PTGはユングの説いた病症と心の成長に対する考え方と多くの点で共…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 3

今回はユング心理学の心的エネルギー論が中心となります。 ここで目的論という言葉が出てきますが、この点については下巻『野口整体と科学的生命観』に詳述されているので、参照してください。 ユングの心的エネルギー論 深層心理学は無意識を研究するもので…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 2

正心正体で充実した時間を生きる― 全生とは一刻一刻を、全力を以って生きること カイロスは、意識的に管理したりすることのできない時間です。産科の医師が「土日は休みだから、お産を金曜日に済ませる」というように、「人間の誕生」までをクロノス時間によ…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 1③

二つの時間・クロノスとカイロス― 一刻一刻を、全力を以って生きる ③東洋の気の生命観とカイロス 湯浅泰雄氏はクロノスとカイロスについて、次のように述べています(『宗教と科学の間』)。 3 時の動きの内にはたらくもの …カイロスとは要するに、「時は熟…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 1②

前回引用した、生命時間と貨幣経済の問題を主題にした児童文学『モモ』(ミヒャエル・エンデ)では、人間の生命時間を司るマイスター・ホラという不思議な人が登場します。 マイスター・ホラは、あらゆる人間の時間の源である「時間の国」にやってきた主人公…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 四 1①

四 心の時間と気の流れ ーユングの心的エネルギー論と野口整体の気の観方 今回のテーマは「時間」です。東洋的に「時の流れ」と言ってもよいでしょう。 私が塾生になって最初の年だったと思いますが、金井先生が整体指導を教える練成会で、先生が塾生の指導…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 8

自我の主体性発揮と「感受性を高度ならしむる」 Mさんの指導例にもあるように、私の個人指導では、いつしか活元運動が中心となりました。 その指導の中で、始め尋ねられても思い出せなかった、体を偏らせている不快情動の内容(陰性感情)は、愉気法によっ…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 7

今日と明日は、個人指導と心の成長が主題です。私にとって、野口整体を金井先生の下で学んだ最大の収穫は、自分が成長するとは、大人になるとはどういうことかを学んだことだったと思います。 それは、何かをそつなくこなしたり、表面的な感情的同調ができる…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 6

感情が流れると意識(自我)と無意識(自己・魂)がつながる ― 感情表現を通じて他者に理解されることの意味 河合隼雄氏は「感情」とたましいとのつながりについて、次のように述べています(『ユングと心理療法』)。 個を超えて …近代になって人間の理知的…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 5

個人指導とコンプレックス― 活元運動と病症の経過 ―腰痛が「自我の主体性」を取り戻す 個人指導で〔身体〕を観察することは、生活している人間としての動きが、背骨に表れているのを観察することです。 このような身体性の観察(気で観る)を主とするのが野…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 4

今回から、金井先生の指導例を基に(次回紹介)、意識・感情・無意識がつながりを取り戻す意味について、ユング心理学の視点から述べていきます。 4 意識・感情・無意識をつなぐ身体感覚 私は、人間の全体を「意識・感情・無意識」と表現してきました。これ…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 3

心の流れを調えるために身体を整える― 心の流れが淀むようになっている現代 一般的にも、人は「あの人は快活だ」、また「暗い人だ」、などと見るものですが、これは、心のはたらきを相手の「気」に見ているのです。 気で〔身体〕を観察していますと、心のは…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 2

不快情動による「偏り疲労」と「コンプレックス」の共通点 ― 身体に読み解く潜在意識 二で述べたように、私は個人指導で、身体(背骨を中心に)を観察し、筋肉および脊椎骨の硬張りを通じ、本人が意識できなくなっている「潜在感情」を観察しています。それ…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 1

三 ユングの心的エネルギー論と野口整体の気による身心観 偏り疲労(体の歪み・硬張り)は、情動エネルギーによるものだとここまで述べてきました。しかし、実際に指導の中で、本人の中でもはっきりしない感情について踏み込むというのはそれほど簡単ではな…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 二 8② 

ここでは「今、ここ」にある自我と、過去と記憶の集積に捉われた自我の相違を踏まえながら読んでみてください。 自我の再構成を自然に促す心療整体 ②私のじねん流臨床心理の意味 師野口晴哉は、「《潜在意識教育》意識以前にある自分」(『月刊全生』1967年…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 二 8①

自我の再構成を自然(じねん)に促す心療整体 ① 自我の再構成 河合隼雄氏は「自我の再構成」について、次のように述べています(『母性社会日本の病理』日本人の自我構造)。 …青年期になると、自我は今まで自分の受けいれてきた規範を根底から疑ってみ、もう…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 二 7

自我とは ここで、自我とは何かを少し補足しておきたいと思います。 「私」という自己感覚・自己意識が「自我」というものですが、現代の多くの人は自我のはたらきとしての思考・感情・意志を、外界からの刺激に反応して生じる受動的なものとして捉えていま…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 二3 

自身の内と確かなつながりのある自我を育成(強化)する 「これが私(自分)」という意識を、心理学では自我と言います。 ユング派臨床心理学者の河合隼雄氏は、自我は「外界との交渉の主体」、そして「内界を認知する(自覚する)主体」であると定義してい…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 二2

心の生活を振り返る時間としての整体指導 ― 情動(陰性感情)の観察で得た「まぁんじゅう理論」 私は、整体指導を行うようになった初期には、相手の身体に比較的大きな変化(歪み・偏り疲労)を観察することから、やがて小さな変化までを捉える観察眼を発達…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 二1

二は、金井先生の個人指導をユング心理学の視点から考えるという内容で、偏り疲労の中に圧縮されている情動エネルギーから、心の問題として考えられがちなコンプレックスを観察すること、そしてそれにはどのような意味があるかが主題です。 特に自我と意識と…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 一1②

1 コンプレックスとは ②身体症状が表現する不快情動 また、河合氏は先の例に先立って、コンプレックスを次のように説いています(『コンプレックス』第一章)。 1 主体性をおびやかすもの われわれは自分で自分の行動を律することができる、と思っている。…

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 一1①

近藤 完成している中巻の編集を、ブログ用に少し再編しました(内容の削除はありません)。まず、コンプレックスと言うと「劣等感」を思ってしまう人が多いので、心理学的な意味でのコンプレックスとはどのような意味かを確認しながら読み進めてください。 …

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 一

一 個人指導と主体性を損なう偏り疲労―「感受性を高度ならしむる」整体指導 今回から第四章に入ります。第四章は深層心理学の実際に入るため簡単ではありませんが、中巻の中でも白眉と言える章で、人間の心と体の間にあるコンプレックスが焦点となっています…