野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第一章 野口整体の身心の観方と「からだ言葉」三7①

からだ言葉は、気の「心理的側面」を表していた

― 気のはたらきを研究するには深層心理学の方法が必要

①気で心理的側面を観るからだ言葉

 本章のからだ言葉で述べてきたように、日本では心理的な意味で「気」という言葉を頻繁に使い、気を通して心を感受する伝統がありました。

 師野口晴哉は、「気は心と体をつなぐもの」とくり返し語り、身体的側面だけではなく、心理的側面を重要視し捉えてきました。しかし湯浅泰雄氏は、現代の東洋医学では「気」を治療効果的・身体的側面から見ることが多い(=心理的側面が活かされていない)と指摘し、次のように述べています(『気とは何か』)。 

心理―生理の境界領域

気のはたらきはまず、心身の訓練を重ねた人が主観的に感得する作用であって、その意味において、「こころ」で自覚され、認識される作用である。一般には、「心」のような主観的な作用はできるだけ排除して説明するのが〝科学的〟であると考える傾向があるが、そうではない。近代の二元論の考え方をのりこえるには、むしろ気のはたらきが「こころ」の面と「からだ―もの」の面の両方において(心理→生理→物理)現われてくるという点に、われわれの考えるべき重要な問題があるのである。

ただし気のはたらきは、…心身の訓練を重ねた…人が、特異な状況下で(変性意識状態で)自覚できるものである。したがって現代的立場から研究してゆくには、深層心理学(無意識の心理学)の見方や方法をとり入れて研究する必要がある。…しかし従来の東洋医学研究は心理学には無関心であったため、心理的レベルにおいて現われる気のはたらきが、生理的レベルに現われる気のはたらきと具体的にどのように関連しているのかという点については、まだ何ら研究が行なわれていない。

  私は、師の没後四十年を経過した現在において、野口整体心理的側面を伝承することの困難さを強く感じるものです。この背景には、現代日本人の意識が、かつての日本人の意識から大きく変化しているということがあります。それは、本章で表した「からだ言葉」が使われなくなっていることが象徴しているのです。

敗戦後の「道」の喪失と理性至上主義教育によって、身体性の衰退(=身体意識の低下)と「感情の未発達」を招き、日本人としての「情」が衰退したのです。

 これが、6の引用文にある「からだがお粗末にされ」と「感情表現がどんどん貧しく」なった理由です。