第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 一
一 個人指導と主体性を損なう偏り疲労―「感受性を高度ならしむる」整体指導
今回から第四章に入ります。第四章は深層心理学の実際に入るため簡単ではありませんが、中巻の中でも白眉と言える章で、人間の心と体の間にあるコンプレックスが焦点となっています。
日本ではユング心理学として知られているC.Gユングの創始した「分析心理学」は、コンプレックス心理学と呼ばれていた時代もあります。
コンプレックスという概念を最初に打ち出したのはフロイトですが、ユングは言葉の刺激に対する情動反応(時間・脈拍・呼吸・皮膚)を客観的に測定することで、無意識の存在と、その内に存在するコンプレックスが心身を支配することを科学的に立証しました(言語連想実験)。
整体個人指導においては、時間・脈拍・呼吸・皮膚の変化の観察(機械ではなく手と目)とともに、偏り疲労という椎骨・関節に起こる歪みや変化から、コンプレックスと無意識の存在やありようを観るのです。
これは金井先生が啓いた観察眼でもありますが、野口晴哉先生もこのような観察についてたびたび言及して重要性を説き、「体の記憶」という表現でもコンプレックスについて述べています。
そして、ここに自身と他の治療家の決定的な違いがあり、奥義と言えるものだと言っています。
今日の本文は一のリードのみですが、より実際的なユング心理学と整体の共通点についての内容に入っていきましょう。
(註)コンプレックス 初め「感情複合」と訳されたコンプレックスという語は、フロイト・アドラー・ユングなどの深層心理学諸学派の間でだけ流通する概念。
(金井)
湯浅泰雄氏と河合隼雄氏の著作を通じてユング心理学に出会ったことは、「情動による偏り疲労を観察の中心とした」私の個人指導とは、「身心の主体性発揮を妨げるコンプレックス」を対象とした指導であると、新たな認識を得ることになりました。
偏り疲労から自身を、とりわけ「感受性」を振り返る指導を行ってきたことについて述べていきます(人は生きている環境・外界を、自身の感受性によって捉えており、感受性のあり方がその人の人生を形作っている)。