第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 二3
自身の内と確かなつながりのある自我を育成(強化)する
「これが私(自分)」という意識を、心理学では自我と言います。
ユング派臨床心理学者の河合隼雄氏は、自我は「外界との交渉の主体」、そして「内界を認知する(自覚する)主体」であると定義しています。
内界(内的世界)とは心の内を言い、その外・自分以外の人や事物が外界(外的世界)です。
「外界との交渉の主体」とは、外界を知覚・認識し、意思と言語、思考能力によって、他者に働きかけたり、目的に適った行動を起こしたりするはたらきです。そして自我は、自分と他者、内界と外界を区別する役割を持っています。
そして「内界を認知する主体」とは、内的な感覚(身体感覚)や感情、要求を、言語化によって自我に統合するはたらきです。自分の内的な感情や要求は、意識化されないと「自我」に組み込まれない(自分のものとはならない)のです。
(意識化とは言語化であり、言語化は他者との対話により成立し、これにより感情が発達する)。
自我は、先ずは親からの「話しかけ」に依って発達していきます。それは例えば、子どもに情動が起きた時、母親から「あなたはこう思った(悲しかった、また嬉しかった)のね」などと、母親による、子どもの感情の「意識化」をすることです(幼児は、情動はあるが感情は未発達である)。
「話しかけ」の意義とは、感情を、未分化な状態から意識化する(=言語化により感情を学習し、分化する)ことにあります。
感じたことを言葉にすることで他者と心を共有できるようになり、これが感情を自我に統合することです(感情を自我に統合することで感情を使うことができる)。
同様にして、身体感覚・要求というものも自我に組み入れられていくのです(野口整体では特に重要な部分で、個人指導での心理面の対話はこれを促す)。
「自我に統合」「自我に組み入れられ」というのは、そのように意識が発達することで、自身の内と確かなつながりのある自我へと、発達・成長することです。このように、自我は自身の内と外をつなぐ大切な役割を担っています。
内界と調和することで、自我が無意識からのエネルギーを使えるようになり(=やる気・意欲が出てきて)、対話能力・集注力が高まり、生きる力が育っていくのです(=「内界への適応」が進むと、外界への適応力が増す。内界に不適応だと、外界にも不適応となる)
整体指導者が相手の〔身体〕(註)の観察を通じ、潜在意識を捉え(本人が裡で感じているものを、漠としたまま把握し)言葉がけすることは、本人が意識できない部分を気付かせていくことに大切な役割を果たすと思います。
これは、自我が、意識下に潜んだ心を認識し、後に自己を見出すことにつながるのです(ユング心理学での「自己」は、仏教で伝えてきた「真我」)。