野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

第四章 野口整体とユング心理学― 心を「流れ」と捉えるという共通点 三 7

 今日と明日は、個人指導と心の成長が主題です。私にとって、野口整体を金井先生の下で学んだ最大の収穫は、自分が成長するとは、大人になるとはどういうことかを学んだことだったと思います。

 それは、何かをそつなくこなしたり、表面的な感情的同調ができるようになったりすることなどではありません。

 今は、教育の世界でも、良い大学を出たり、社会的に認められる資格を取ったりすることが、成長することと混同される傾向があり、心というものは一生成長し続けるのが自然であることも忘れられています。心の成長と感情の発達を焦点として、読んでみてください。 

心(感情)の発達過程と個人指導 

 6(前回)の引用文中で、河合隼雄氏は

近代になって人間の理知的側面が強調されるあまり、人間は感情をおさえて理知的にものごとを判断することを高く評価しすぎるようになった。

と述べていますが、現代は、このような(身体と離れた)頭の使い方をする時代となり、「うつ」症状の人が大変多くなっているのです。

 うつ症状のある人は感情的に「葛藤」しているのです。しかし、これを意識できちんと捉えられていないからこそ、「うつ」なのです(うつの症状は、無意識が訴えているものを、精神的・身体的に感じていること)。

 それは、頭が外側に気をとられている ―― 対人関係において、こう言ってはいけない、こう思ってはいけないと考えている ―― ことで、意識が自分の内側に向かず、心や感情と対話がなされていないのです。

 幼児期の成長過程においては、親が心や感情を受け取り、それが言葉として表現されることで、子どもが感情を意識でき、それが自我に組み込まれることで感情表現力が育っていくのです。

 しかし、受け取られることが少なく育つと、大人になっても自分の感情をきちんと自覚することができず、「感情表現」もできないのです。

 また、ある程度表現能力が備わっていても、身近にこれを受け取ってくれる人(感情を共有できる人)がいないことで、感情の発達(心の成長)が進まない人があり、個人指導においては、このような意識の発達を促すという目的があります。

自らの心の深層へとつながるために、「感情表現」がきちんとできることが肝要です。

 一時的軽減として「感情の発散」は意味のあるものですが、個人指導における「感情表現」において、その人の自我が主体的に関わることで、その表現がなされ、他者に理解される時、自らの心の深層へとつながっていくのです(活元運動で感情の発散をのみしていては、このように発達しないといえる)。

 野口整体の個人指導においては、もちろん、言語表現をその人の理解のための中心に置くわけではありません ―― 人は本当に感じているものは訴えられない ―― が、成長とは、要すれば内外(内界と外界両面)に対する「対話能力」の発達と、私は考えています。