野口整体 金井蒼天(省蒼)の潜在意識教育と思想

金井省蒼(蒼天)の遺稿から説く「野口整体とは」

野口整体と科学 第一部第五章 東洋宗教(伝統)文化を再考して「禅文化としての野口整体」を理解する 一 4

 今回から一4・5・6に入りますが、共通テーマは「分離と対立の問題」です。コロナ禍が始まる前から、「分断」や「格差」、「孤立」などが世界的に問題になっていましたが、コロナ以後、それはより明確になってきました。

 そして今、原点回帰として文明や思想、世界観に対する関心がこれまでになく高まっているそうです。

 それでは今回の内容に入ります。 

4 理性の発達による意識の変化と近代科学の発達― 理性至上の時代から身体性に回帰する

 やがて西洋では、中世(5世紀~14世紀)のキリスト教会の絶対的権威 ―― ギリシア哲学は影を潜め、キリスト教だけしか許されない ―― の時代を経てルネサンスを迎えると、自身に具わる「理性」のはたらきによって物事を認識し、自分の意志を確立するようになりました(古代ギリシアの再発見)。

この意識が「近代自我」というものであり、この「自我意識」の発達は、個人主義(「近代自我」の確立)を生み、個人主義の台頭は、やがて民主主義へと発展します。

 このような人間の意識の大きな変化が、近代科学が発展する背景に存在していたのです(科学革命を推進する上での人間の意識革命)。

 石川光男氏は、近代科学誕生の文化的背景としての西欧における「個人主義」の芽生えについて、次のように述べています(『ニューサイエンスの世界観』)。 

近代科学誕生の文化的背景

近代科学が西欧に誕生した文化的背景として見逃すことができないのが、西欧の個人中心主義である。

11世紀までの西欧社会では、個人は精神的にも経済的にも共同社会にしばりつけられていて、個人的な自由が少なかった。ところが12世紀以後に誕生した都市社会の中では、集団の意思でなく、自分の意思で考えたり行動したりする自由をもつようになった。

そのために、それまでの集団的権威に対する信頼から独立して、自分一人の頭脳に頼るという新しい「個人主義」が芽生えてきた。

…このような「個人主義」(自己中心主義ではない)が、科学的な批判精神を育てる背景として重要な役割をはたしたのは見逃すことができない。

   自分の意志で考え行動する「個人」とは、自分を他と切り離し独立した存在として自覚し、他に対して自立的な立場に立とうとするものです。英語ではindividualと表現され、「これ以上分割し得ざる者」という意で、これが「近代自我」です。

 理性を発達させ、他と切り離された自我を確立することによって、初めて外界を客観的に観察(=科学的態度を確立)することができるのです。

 この近代自我意識と近代科学の発達は、後に「科学革命」と呼ばれる人類史上最大の革命というものでした。

 人類に多大な恩恵を与えた科学の発達は、二度の世界大戦を引き起こし、また、今日のような科学の発展の結果、温暖化など環境破壊をもたらしました。

 ギリシア人、ヘブライ人による二つの二元論的精神は、対立を拡げ、対立は支配へ、支配は破壊へとつながったのです。

 しかし現代では、二十世紀半ばからのこのような西洋科学文明の行き詰まりによって、二千五百年の西洋の伝統に終止符が打たれようとしています。

 対立を生み出す大本には、人間自身に、「理性」と「それ以外」という「二元」状態があるのです。

 この「理性」を至高のものとする考え方という根本問題に気づいた欧米人は、現代において「身体性」への回帰という現象を生み出し、禅を代表とする東洋宗教への関心が高まっているのです。

 (補)西洋のDivide and rule(分割して統治する・分割統治)

ある者が統治を行うにあたり、被支配者を分割することで統治を容易にする手法。宗教、民族、地理的条件などで対立や不信をあおり、被支配者同士を争わせることで、統率力、団結力を奪い、統治に対する反発から目を反らせることができる。

西洋諸国は、近代における植民地経営の着手として、支配される側の人種、言語、階層、宗教、イデオロギー、地理的、経済的利害などに基づく対立、抗争を助長して、後者の連帯性を弱め、自己の支配に有利な条件をつくりしたうえで、集団的な暴力と支配を行った。